見出し画像

「今は 積極財政一択」の理論(番外編.量的金融緩和の後遺症はあるか2)

今回は、前回先送りしていた「巨額になった日銀当座預金で貸出が増えたり、ハイパーインフレになったりするのか」についてと、色々な見解がある日銀に関する事項について、最も確からしいと考えるものを整理します。


貸出増加への対処

資産間の比較

金融機関として、従来(2000年頃まで)は預金に相当する規模の貸付金がありましたが、現在では貸付金は少なく、日銀当座預金、国債などで埋められている状況です。

それぞれのリスク・リターンは以下のようになります。
日銀当座預金:付利(政策金利:短期金利)
国債:国債利回り(長期金利)、キャピタルロス(時価減少)のリスク有
貸出金:貸出金利(長期金利)、デフォルト(貸倒)リスク有
 金利(利回り)の変動リスクはそれぞれある

そもそも貸出金に対する需要が無ければ話になりませんが、上記の比較の中で、貸出金が有利と判断されれば、貸出金が増えることになろうかと思います。

日本銀行と金融機関のバランスシート(貸借対照表)

マネーストックの増加は物価上昇に直結するか

貨幣数量説の基本式は

PT=MV
P:物価水準
T:取引量(経済全体の取引数量)
M:貨幣供給量
V:貨幣の流通速度(貨幣が1年間に何回取引に使われるか)

であり、MとしてはマネーストックM2などが想定され、Vが安定的であればマネーストックの増大は物価上昇に直結します。
しかしV不安定であるという実証研究があります。デフレ期のタンス預金などを考えると、さもありなんです(タンス預金によりVは低下)。

また、
ベースマネー ⇒ マネーストック ⇒ 物価
という関係性があると見られているものの、必ずしも増減が連動しているわけではありません。

そのため「ベースマネーの増大により物価上昇となることもあり得る」という程度の表現が妥当かと思われます。

ベースマネーを増やしてもマネーストックの増加につながらないのは、ロープでつないだ犬に運動させようとロープを長くしたようなもので、体の弱い犬はロープが長くなったところで運動量は低いままです。 

貸出増加への対処

貸出しは預金増加をもたらします(銀行にとって、(借方)貸付金 (貸方)預金 で、仕訳はその通り)。
預金増加は、マネーストックの増加を意味しますが、それが必ずしも物価上昇をもたらすとは限らないのは、上で述べた通りです。
そうした中で、もし物価上昇の兆候が見られたら、政策当局にはいくつかの対処法があります。

対処法として主に考えられるのは、
政府支出の抑制(この段階になれば、民間の投資需要があることになるので、緊縮財政・プライマリーバランス黒字化も正当性を持つ)
・急激な貸出しを抑制するため、金利の引き上げ売りオペ
・状況によっては貸出の総量規制もあり得る

金利の急激な上昇や、経済の失速は避けたい状況ですので、それらを抑制するためにも、日銀には適正な操縦が求められます。

日銀の財政

債務超過になるか

国債など債券は、金利が上がる時価評価額が下がります。しかし日銀では国債を簿価評価しているため、時価減少による債務超過はありません。
一方で急激な金利上昇では、一定期間債務超過になる可能性はあるようです。日銀の資産側国債は、借換えを通じ収益率が高くなるのは徐々にである一方で、日銀の負債側日銀当座預金の付利は金利上昇をすぐに反映していくことによります。
とはいえ、長期的には金利上昇による逆ザヤは解消されることが期待されます。

以下のYouTubeで、どの程度の金利上昇で逆ザヤが発生するかなどが示されています。

最後に

貸出し増加について結論としては

貨幣の流通速度ははっきりしない面もありますが、日銀当座預金が急激に貸出しに変わるような事態は、「貸出増加への対処」に記載したように抑制されるでしょうし、そのような事態になっても急激な物価上昇が生じる必然性は無いだろうと考えています。(日銀当座預金が多いから制御不能になるような構造には思えません。)

為替への影響

「異次元緩和の罪と罰(講談社現代新書)」で著者の山本謙三氏(元日銀理事)は緩和措置の後遺症として「通貨への信認の低下」を強調しています。

ベースマネーの比が長期的には為替相場に反映されるという話は元々あるのですが、それと同程度の影響を想定しているのか、それ以上のものを想定しているのかは、はっきりしません。

気になること

南海トラフ地震。「M9地震に備えよ-南海トラフ・九州・北海道-(PHP新書・鎌田浩毅)」によると、被害額は東日本大震災より1桁大きい可能性があるとのこと。その場合、生産設備破壊による供給不足と復興需要拡大による超過需要の中で大規模な財政赤字を要するため、インフレを生じやすい状況になるだろうと懸念されます。ただ、実施した量的質的金融緩和の影響は直接ないものと考えています。

いいなと思ったら応援しよう!