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「今は 積極財政一択」の理論(5.緊縮財政で債務比率が増加する逆説)

※従来「3.補足」としていたものの前半を「3.財政ファイナンス・MMTとの違い」として残し、後半を「5.緊縮財政で債務比率が増加する逆説」として加筆修正しました。

投資乗数

投資が変化したときに国民所得がどれだけ変化するかを示す指標」を指します。

投資乗数で、国債発行以上の税収増を期待できるか

(投資増加のケースを例に)

投資乗率を2とします(高度成長終了後はもっと低いことが多い)。
これにより、毎年1兆円国債を追加的に発行して投資することで、名目GDP毎年2兆円増加するものとします。
それにより毎年税収が増えたGDPの20%相当の0.4兆円増加するものとすると、プライマリーバランスは0.6兆円赤字方向の変化で済むことになります。 
とはいえ、国債発行分を税収増で全額賄えるとまでは言えないことになります。

対GDP比国債残高で見たらどうか

(投資減少のケースを例に)

GDPの1%相当国債発行を抑制するものとし、その分投資も減少させるものとします。
投資乗数が2とすると、上記の変動により、GDPは2%減少します。
それによって、税収は増えたGDPの0.4%相当減少する(プライマリーバランスは差引0.6%相当改善)とします。
事前の対GDP比国債残高が250%の場合、事後の値は、

(プライマリーバランスの悪化+既存の国債残高)/事後のGDP
=(△0.01GDP+0.004GDP+2.5GDP)/0.98GDP
≒2.545

と、254.5%4.5%ポイント却って増加することになってしまいます。

数式で確認すると

GDPはGDP、プライマリーバランス PB、政府投資 Inv、国債残高 B とおきます。
ΔGDP/ΔInv=α (1≦α:投資乗数)
ΔPB/ΔInv=-β (0<<β<1:税収の変化分1より小さい)

1単位投資を抑制すると、プライマリーバランスはその分改善しますが、GDPの減少を通じて税収減少をもたらすので、βは1よりやや小さくなります。GDPを介した変動ですが、ここでは直接の影響のように記述しています。

投資1単位を変動させた場合の対GDP比国債残高の変動は以下のようになります。

Δ(B/GDP)/ΔInv=ΔB/ΔInv/GDP+B・Δ(1/GDP)/ΔInv
         =(ΔB/ΔPB)・(ΔPB/ΔInv)/GDP
          +B・Δ(1/GDP)/ΔGDP・ΔGDP/ΔInv
         =(-1)・(-β)/GDP
          -B・(1/GDP^2)・α
         =(β-B/GDP・α)/GDP
α=2β=0.6B/GDP=2.5とし、Inv=0.01GDPとすると、
(0.6-2.5・2)/GDP×0.01GDP=-4.4%
よって上の数値例のように、1%の投資増加(減少)で、対GDP比国債残高が4.4%ポイント減少(増加)となり、整合的です。

影響を控えめに見積もるために、α=1、β=1とする(B/GDP=2.5、Inv=0.01GDPは同じ)としても、
(1-2.5・1)/GDP×0.01GDP=-1.5%
と、投資増加(減少)で、対GDP比国債残高が減少(増加)、すなわち、プライマリーバランスを改善しようとしてすると、対GDP比国債残高はより増加することになります。国債残高がGDPに対して大きいことが、このような結果をもたらす要因です。(分子の変化よりも分母の変化の影響が大きい。)

何を基準に増減を捉えるか

(参考にできる文献を発見できていないので、あくまで私見です。)
「国債発行を抑制」「国債発行を拡大」とする基準は、私は前年と同様のGDPギャップをもたらす国債発行水準からの変化と考えます。

投資乗数が2などの高い数値にするには、毎年継続して投資額を高い水準におく必要があります。1年だけの増額では、翌年には減額の効果が生じてしまうためです。
デフレギャップが無くなるような投資を行い、それにより経済が好循環のサイクルに入り、デフレギャップが無くなったり、税収が大幅に増えたりすれば、政府としての投資額は少なくて済むという整理になると考えます。

本稿冒頭の話題のように、投資そのもので税収分を賄える訳ではありませんが、デフレギャップを縮小するように(国債発行をしてでも)投資を行うことで、対GDP比国債残高を抑えることができると考えます。

参考:通常の年間変化を数式で確認すると

t期、t+1期について、GDPをGDPt、GDP(t+1)、国債残高をBt、B(t+1)、
t期とt+1期の間のプライマリーバランスをPB、国債利率をr、名目経済成長率をgとすると、対GDP比国債残高変化率は、
(B(t+1)/GDP(t+1))/(Bt/GDPt)
=(B(t+1)/Bt)/(GDP(t+1)/GDPt)
={(Bt(1+r)-PB)/Bt}/(GDP(t+1)/GDPt)
={(1+r)-PB/Bt}/(1+g)
≒(r-g)-PB/Bt

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