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「社会的ごっこ遊び」で平和を考える

今私は国際バカロレアの認定校であるサニーサイドインターナショナルスクールで小学5/6年生の担任をしており、ヴィゴツキーの学習理論である社会構成主義の学びをどのように実践しているのかをまとめていけたらと思います。まだまだIB教員2年目の実践ログなので、どのような場面に難しさを感じながら社会構成主義の授業にトライしているのかについてまとめていけたらと思います。

▼ これまでのユニットの流れ
・概念型探究のフェーズ(1-3)▶︎ リンク
・概念型探究のフェーズ(3-4)▶︎ リンク
・フィールドトリップ ▶︎リンク

【Central idea】
平和維持と紛争の解決への努力が人々の平和な暮らしを支える
【重要概念】視点、原因、責任
【関連概念】平和、政府、紛争、資源、価値観、政治、権力、思想
【探究の流れ】
- 紛争の発生に寄与する歴史的出来事や社会的要因
- 個人、組織、政府の考えと義務
- 紛争と平和に対する理解を形成する多様な視点と解釈

フィールドトリップで杉原千畝さんの記念館を訪れ、子どもたちの中で、杉原千畝さんの信念や価値観とビザを発給したという行動に意識が向き始めていました。第二次世界大戦中に、杉原千畝さんがユダヤ人にビザを発給するということはどういうことなのかについて、社会的な見方・考え方を働かせながら深めていきます。

社会科の学習指導要領には「社会的な見方・考え方」について次のように書かれています。

具体的には、杉原千畝さんがビザを発行したという社会的な事象について、この事象に関わっていたドイツ、ソ連、日本(杉原千畝さん、外務省)、ユダヤ人、杉原千畝さんの奥さんの6つの視点で、それぞれの考えを比較するためのディスカッションの場を設定しました。

▼ ディスカッションの課題

ときは1940年6月に遡ります。
杉原千畝さんがビザを発給するかどうかを考えるにあたって、様々な視点で考えることが求められたと考えられます。この時代、ユダヤ人はドイツの首相であるヒトラーの影響で迫害を受けており、ユダヤ人が生きるための道は限られていました。もし仮に、リトアニアの領事館で日本への通過ビザを受け取ったとしても、ロシアの領土であるシベリア鉄道に乗って、日本を通り、各国に逃げる必要がありました。今回のディスカッションでは、6つの立場の意見を踏まえて、ユダヤ人にビザを発給するかどうかの決断をしてもらいます。
① 杉原千畝さん
② 杉原千畝さんの奥さん(杉原幸子さん)
③ 日本の外務省(重光葵さん)
④ ドイツの首相(ヒトラーさん)
⑤ ソ連の首相の補佐(モロトフさん)
⑥ ユダヤ人(ニシュリさん)

それぞれの立場でディスカッションを行い、ユダヤ人にビザを発給するかどうかの決断を杉原千畝さん役の人は行ってください。この時に、なぜそのような決断をしたのかについて、複数の視点と自分の考えを踏まえて決断を行ってください。

▼ リサーチ課題

▼ 実際に行われたディスカッション

子どもたちはリサーチして発見した歴史的な事実を踏まえて、自分の立場になりきってディスカッションで意見を述べることができていました。このディスカッションには、原稿はないので、実際のやり取りを踏まえて自分自身の意見を立場を踏まえて発言する必要がありました。ディスカッションの中に、外務省として、これから同盟を組むドイツとの関係性を守らなければならないこと(政治的な視点)、日本全体を守らなければならないこと、同時に領事として目の前のユダヤ人を守るべきであるという考え(人道的な視点)で葛藤しているのが伝わってきます。

ディスカッションの後に、杉原千畝さんにはビザを発給するかどうかの決断とその理由について考えてもらい、その他の役割の人には、ビザを発給するかどうかについての意見書を書くワークを行いました。

3人の杉原千畝さん役の人は全員「発行する」決断を行いました。

▼ 理由
・人として領事として多くのユダヤ人の命を見捨てないことが大事だから
・自分の家族とお金はどうにかなるけど、6000人のユダヤ人は放っておくとドイツの人々に殺されてしまうからビザを発行して日本や他の国に逃げてほしい
・自分の家族は奥さんがなんとかしてくれるから発行する。数人の命より多数の命の方が大切だと思った。

このディスカッションでは、杉原千畝さんの立場に立って考えましたが、最後のワークでは「もし、自分が杉原千畝さんの立場にいたら…?」という視点でビザを発給するかどうかについて考えるワークを行いました。

ここでは、YesかNoで決断をするのですが、自分の決断した時の気持ちをグラデーションで位置付けてもらいました。たとえば、右側の100%YESは「迷わず、ビザを発給する立場」で、反対側は「迷わず発行しない立場」中間は「迷ってビザを発給する立場と迷ってビザを発給しない立場」で分かれて自分の立場を明確にしてもらいました。ここでは、発行する立場が正解ではなく、今の自分だったら実際に発行できるかどうかのアクションベースで考えてもらいました。

▼ 子どもたちの考え
<発行する立場>
【100%発行する立場】
僕は、人を助けたいと思う方だから、外務省でクビになってもいいから助ける方が大事。
【85%発行する立場】
自分がなにをされても6000人の命とは変えられない。もし自分がユダヤ人だったら「なんでそんなことをするの?」と思うし、信用をなくす。一人でも多くの命を救いたい。
【79%発行する立場】
自分一人の命が助かっても多くのユダヤ人の命が助からないと後から後悔するから。
【78%発行する立場】
もちろん日本には申し訳ないけど、発行しなかったら目の前の人を無視したことになるし、いつか必ず後悔するから。自分ができるとこまでやってみる。
【77%〜66%の立場】
もしこの場にいたら、お金は貯めて稼げるけど、人の命はお金を稼いでも助からないからビザを発行することがいいと思った。
【65%発行する立場】
自分の仕事がくびになってしまうかもしれないけど、自分よりも6000人の命の方が大事だと思う。クビになったらまた努力して新しい仕事を見つける。
【55%発行する立場】
色々なことを考えた上でもし、目の前に命が危ない人がいたら助けると思う。あと、家族のこともどうにかできるし、クビになっても命までは危うくないから。
【51%発行する立場】
ユダヤ人はドイツにたくさんの人が殺されることを知っているから、自分だけが怒られるぐらいならたくさんの人を救いたい。
ドイツのスパイや条件が。。。条件が揃ってないから、発給するのはむずいけど、でもギリする。なぜなら、6000人の命がかかっているから。
なぜなら、ユダヤ人は生きるか死ぬかだけど、自分たちは外務省から外されるだけだから。幸子さん(奥さん)も同意している。
【50%発行する立場】
本当はダメだけど、自分がクビになっても他の職業があるから、まだなんとかなるけど、何千人もの命は救えないから。
自分の家族よりも6000人の命の方が助ける価値があるから。
<発行しない立場>
自分の家族のことも心配だし、外交官(領事)の仕事の義務を守った方がいいと思う。
・6000人の命を救いたいが、外務省が「ダメ」と言ってるからしない。ドイツ、イタリアとも三国同盟もしようとしているから裏切りたくない。
・多分僕は6000人の命の責任を負うことができないと思っているし、国のルールを破って発給したら世界から非難されるかもしれない。それにヒトラーなどに追われて最終的に殺されるかもしれない。外務省としての記録も消されるとなおさらいや。
・目的が違うから。クビになりたくない。
人として6000人の命を放っておくのはダメだと思うけど、自分の家族が日本の人とドイツの人から追われる人生にしたくはないからビザは発行しない。
大切に育ててくれた家族は絶対になくしたくない。これだけで僕の心は変わった。

ビザを発行することが人として正しいと思っても、実際に自分が同じ状況の場にいたときに実際にアクションできるのかどうかは変わってくることを感じたのではないかと思います。こうして、グラデーションで立場が分かれるのは、このトピックについてクラス全体でしっかり考えてきたこと、このクラスの中で自分自身の立場を遠慮なく表明できる環境があるからだと感じました。
こうした、自分の置かれている立場や状況で、人として正しい選択や判断ができないことって、社会ではたくさんあると思います。子どもの世界でも自分は良くないと思っていても、クラスの中で権力を持っている人に流されて自分を守るために傍観者になったり、加害者になってしまったりすることは起こりうると思います。同時に、置かれている立場や状況によって守りたいもの、守るべきものが変わってきます。これによって生まれる対立をどのようにして乗り越えていくのか、ユニットの後半では対立をどのように乗り越えていけるのかについても具体的に考えていきます。

いつも読んでいただきありがとうございます。

子どもたちの探究は続いていきます。


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