子どもたちの「理解」をどのように「見とる」のか?
今私は国際バカロレアの認定校であるサニーサイドインターナショナルスクールで小学5/6年生の担任をしており、概念型探究をどのように実践しているのかをまとめていけたらと思います。まだまだIB教員2年目の実践ログなので、どのような場面に難しさを感じながら概念型探究の授業にトライしているのかについてまとめていけたらと思います。
今回のnoteのテーマは「概念型探究の評価方法」です。
Unit3のカリキュラム
これまでの探究の流れ
市場経済ゲーム振り返り
さて、いよいよ市場経済ゲームをDAY10(45分×10セット)を終えました。この市場経済ゲームでは、形成的評価課題で整理した「政府、企業、家計を一括りにした経済社会全体の動き」について探究したことを経験的に掴めるワークとして前半戦は行い、後半戦からは政府が介入しないことによる課題が市場経済の中で生まれ始めたところで、国会議員担当の児童が市場の問題を調査し、構造的に不景気(失業者が出る、給料未払いが起きる、市場の動きが止まる)が起きている原因を分析し、国民全体で納めた税金の使い道を考え、政府として介入する方法を実行し、介入による変化を経験的に学んでいくワークの意図がありました。
実際に政府の介入が行われたのがDAY8で、市場で取引をするJGと金融機関に政府が100$ずつ補助金として支援を行うことで、お金がない家計は金融機関から借入ができるようになり、農家経営の担当は労働者が生産した商品をJGでスムーズに買い取ってもらうことで、経済が再び動き始める現象が起きました。さらに、失業した人も、スキルがないことで雇用が難しかったことが背景になるので、税金を使って無料で学校に通えるサービスが生まれ、雇用されていなかった人も教育を受け、スキルを学び、商品を生産することができるようになりました。以下が最終日を終えた後の各家計、国全体のGDP、国の税収を表したものになります。
JGを除くすべての家計の課税所得額が後半にかけて伸びているのがグラフから分かります。驚いたのは、税金を200$政府の介入で用いることで、経済が再び動き始め、その後税収が約200$入ってきたことです。公共投資した分が税金として国に戻ってくるのを感じたのではないでしょうか。
この市場経済ゲームが始まった最初は、国の始まりという設定で行い、各家計にお金がない状態から始まったので、国が仕事を作り、仕事をするために必要な資金を金融機関から借金して、各家計に60$配布するところから始まりました。上のグラフからもDAY10になると、税収と国債の割合が徐々に変化していることがわかります。経済が発展することで、税収が増え、その税金を用いて国が運営されていくことを感じられたのではないでしょうか。
さて、ここで終わってしまうと「活動主義」の学びに陥ってしまいます。まずは、この市場経済ゲームを通して、各家計ごとに個人で経営の分析を行ってもらいました。
印象的だったのは、この市場経済ゲームに対して「みんなはただ、楽しんでいるのではなく、失敗をして楽しんでいることが分かった。みんなと一緒に失敗して、また立ち直り、その繰り返しが良いと思った。」とこのアクティビティに対して、たくさんチームメイトや同業種のスーパーとぶつかり、葛藤した人が、最後に感じたことを率直にを言葉にしてくれる児童もいました。
さて、この市場経済の景気も良くなり、気持ちよく終わりそうなところで原点に戻ります。
「この市場経済ゲームのミッションはなんだったでしょうか?」
このミッションをあらためて振り返ります。仕事をして最後は全員が自分にできる仕事につきました。うまくいかないときは、家計と国を支えるために、みんなでアイデアを出し合い、公平な社会になるように税率を調整したり、国(国会議員担当の児童)が問題を分析し、税金を公共投資で使うなど様々なアクションをおこなってきました。「さて、次のグラフを見ても、私たちが10日間でつくりあげたこの経済システムはよりよいと言えるでしょうか?」
「全部で7つの家計がある中で2つの家計で総資産の70%を占めています。この数値を見ても、私たちがつくってきた市場経済は健全だと言えるでしょうか?」という問いを投げかけたところで、総括課題とつなげていきました。「子どもたちの学んできた知識やスキルを活用して、理解をつくりあげられる最後の"後押し"をする総括課題ってなんだろう?」試行錯誤ながら、このユニットの抑えるべき重要概念とこれまでに学習してきた教科の関連概念をつなぎ合わせた課題を設定してみました。
総括課題
今回の総括課題は、政府の介入と市場経済の関係について自分なりの理解を言語化してもらいます。今回フォーカスするATLスキルは思考スキルの中の転移スキルになります。私たちは、市場経済ゲームという文脈の中で市場経済の仕組みと政府の介入による市場経済の影響について学んできました。この課題では、レベルごとに課題の設定をしてあります。
レベル1の課題では、私たちが経験した市場経済ゲームの文脈と実際の日本の市場経済の文脈の繋がりを探究する課題になります。この課題では、今私たちが生活している日本の市場経済と政府の介入の関係性についてリサーチを行い、今回の市場経済ゲームとの繋がりを見つけて、言語化をしてもらいます。
レベル2の課題では、市場経済ゲームで学んだ知識やスキルを活用して、市場経済ゲーム内で起きている問題の分析と発見した原因に対する政府の介入方法のアイデアを出す。
或いは、身の回りの大人に「お金に関して困っていること」のインタビュー調査を行い、問題の原因を構造的に分析し、私が政府の人だったらどこの原因に、どのようにアプローチをするのかを具体的なアイデアを出し、その影響を予測してもらいます。
レベル3の課題では、市場経済と政府の関係性を身の回りの全く異なる現象から発見し、繋がりを言語化してもらいます。具体例としては、「信号機と交通状況」の例をあげました。信号機が政府の役割を行い、交通状況が市場経済を表しています。もし、信号機がなかったら、車が混雑し、結果的に渋滞が起きて、車の動きが止まってしまいます。というように、身の回りの全く異なる現象と市場経済の繋がりをつなげてもらいます。
小学5/6年生にこの課題は難しいそうにも見えますが、小学生だからこそ私たち大人にはない自由な発想で、身の回りの経済に関わる問題に対して自分だったらどのようにアプローチをするのかを考えることができます。また、子どもたちのアウトプットも紹介できたらと思います。
今回のnoteでは子どもたちが「ユニットの学習を通してつくりあげた理解をどのように評価するのか」について、私なりの試行錯誤していることをまとめてみました。その1つの方法として、今回のユニットでフォーカスする「異なる文脈に転移させる」は1つの有効なアプローチになります。学んだことをそのまま言葉にしたり、調べたことを要約してまとめるというアウトプットではなく、全く別の現象に自分の理解したことを喩えてみたり、身の回りの問題に自分が学んだ知識やスキルを活用してアイデアを生み出すことで、自分自身がどれだけ理解しているのかを知ることにもなると思います。
子どもたちの探究もいよいよ最終章です。
いつも読んでいただきありがとうございます。