見出し画像

【先生の学校:講演振り返り②】IB(PYP)のカリキュラムの考え方と実践紹介

昨日、私にとって大切な場の一つでもある「先生の学校」で「国際バカロレアの教科を横断するカリキュラムの考え方」について私(たち)なりに解釈したことを伝える場を頂きました。このnoteでは、イベント後に改めて私なりの理解を整理する目的で、全3回に分けて今回のイベントで伝えたかったこと、伝えきれなかったことをまとめていけたらと思います。今回のnoteのテーマは「PYPのカリキュラムの考え方と実践紹介」になります。


前回の振り返りPart①のnoteでは「IBで大切にされている「観」とは?」についてまとめてみました。

国際バカロレアのカリキュラム

今回のイベントではPYP(初等教育)に特化したカリキュラムの設計の話がメインになるのですが、国際バカロレアでは学校種ごとに異なるカリキュラムの考え方が取り入れられています。以下の図は国際バカロレア機構が発行している「学習と指導」を参考に作成を行いました。

私がPYP校で働き始めて、コディネーターの方からPYPのカリキュラムの考え方は「ミックスジュース(=この資料ではケーキ)」であると言われてきました。最初はピンときていなかたのですが、私なりの今の解釈としては「知識と教科の関係性」をケーキというメタファーで表しているのかなと考えています。この比喩では、知識がケーキを表しており、各教科がケーキの材料を表しています。また、知識というのは、学習者が学習のプロセスの中で構築していく概念的理解のようなものだと捉えています。
ケーキという例えでは、ケーキを見たときに、ケーキの元となる材料が変容してるのが視覚的に捉えられます。これを「知識と教科」で説明すると、学習者が構築した知識(≒概念的理解)というものが、複数の教科によって構築されたものであっても、教科が見えにくくなるぐらい、教科の知識が融合(変容)している状態を表しています。

言葉ではなんとなく掴んだとしても、実際に具体的にカリキュラムがどのように設計されているのか、まだまだイメージが湧かないと思います。

PYPのカリキュラムの考え方

よく、PYPのカリキュラム設計にある誤解が「教科の知識を横断的に学ぶと、教科の知識やスキルが身につきにくいのではないか?」或いは「教科の知識やスキルは軽視されているのではないか?」という質問を受けることがあります。

PYPのカリキュラムの考え方では、次のように書かれています。

PYPのカリキュラムは、知識、概念的理解、スキル、姿勢、行動の5つで構成されており、これらを育むために6つのテーマを使用し、それ(テーマ)を6つの教科で支える。つまり、目的としては、教科の知識、概念的理解、スキル、姿勢、行動を育むことが明記されており、手段として「教科の枠を超えたテーマ」を教科で支えると書かれています。

イメージしずらいと思うので、私なりにここで書かれていることを図式化してみました。

左側の図がどちらかという馴染みのある教科カリキュラムになります。複数の教科が独立している様子を表しています。この教科カリキュラムでは、現実世界で起きている現象を教科という領域で切り分けることで、学習者目線でその教科の見方考え方を育みやすい側面がある一方で、現実社会で起きていることと教科のつながりが見えにくくなっている課題はあるのかなと思います。学習者が「なぜ、この教科を学ぶのか?」という問いに対して、実感をもちにくいことにもつながっているのではないでしょうか?

一方で右側の図は、PYPのカリキュラムの考え方である「教科の枠をこえたテーマ」に基づいた設計の考え方を表しています。大きな違いとしては、最初に教科ありきでカリキュラム(単元計画)が設計されるのではなく、教科の枠を超えたテーマと探究の対象を理解するために、どの教科の知識、概念的理解、技能、見方・考え方が必要になるのか?というように、現実世界で起きているテーマをスタート地点にブレストをするので、学習者目線では「なぜ、この教科を学必要があるのか?」を実感を伴いながら学習に取り組むことができるのではないかと考えています。

PYPの教科の枠をこえたテーマとは何か?

さて、ここまで何度か「教科の枠をこえたテーマ」というキーワードが出てきているのですが、このテーマとは何で、どのような背景でつくられたのかについても、私なりに国際バカロレア機構が発行している「学習と指導」を参考にしながら言語化してみました。

ここでのポイントは、この教科の枠をこえたテーマというものが「人間の共通性」と「国境を越える問題についての見方」について研究がベースに作られたというところにあります。国際バカロレアのカリキュラムで学ぶ学習者の想定として、1つの国ではなく、世界各国で暮らしている子どもたちが対象になっています。つまり、人間にとって共通の学ぶ価値のあるテーマが含まれていることが鍵になります。そして、この教科の枠をこえたテーマと実社会とのつながりを「ジブンゴト」に感じれるような学びとのつながりでは、次のように書かれています。

学習者は、世界における自分の問題および世界が抱える問題に触れるにつれ、課題があることを認識し、そしてその課題に取り組まなければならないと感じるようになるだろう。(Freire 2005: 81)

引用:学習と指導

こちらがPYPの教科の枠をこえたテーマになります。

PYPでは、1年間に6つのテーマを6週間ずつ探究していきます。1つのユニットに私の学校では40-50時間程使って探究を進めていくので、じっくり学びを深めたり、広げるカリキュラムの余白も担保されています。

イベントでは、「この地球を共有すること」の中の「平和と紛争解決」を探究の対象にした実践について紹介をしていきました。

実践事例

実践事例を通して読み手の方に客観的に確認して頂きたいのが、PYPのカリキュラムを構成する5つの要素(知識、概念的理解、スキル、姿勢、行動)を育むために、「教科の枠をこえたテーマ」を使用し、どのように複数の教科で支えているのかについてです。この実践(ユニットの一部)では、アートと社会科(歴史と政治の見方・考え方)を融合したものになります。

この形成的評価課題では、戦争が起きる原因について概念的に理解するために、戦争が起きる前の風刺画の絵を描く活動を行いました。
「なぜ、歴史的な事実と作家の解釈を含む風刺画を描くことにしたのか?」
参考になる文献を紹介します。(リンク)この文献には風刺画の価値について次のように書かれています。

風刺画の資料的価値は,次の4つの点にある。
多様な歴史の見方につながる
学習者の興味関心を喚起できる
複雑な歴史事象を要領よく理解できる
政治関連の資料が豊富である

つまり、風刺画を描くには、複数の視点でのリサーチに加え、何を誇張して表現するのかは作者の意図(解釈)が含まれることになります。描かれた風刺画を読み解く際には、事実が何で、解釈が何なのかを理解することはもちろん、この風刺画を通して作者が伝えたかったことを考えることも教育的価値の1つではないかと考えています。実際に18名のクラスメイトで1人1つの風刺画を担当したことで、クラスの中で18枚の風刺画が完成しました。そして、風刺画を書いて終わりではなく、風刺画を教材に「なぜ戦争が起きるのか」という概念的な問いに対して、複数の戦争の事例からパターンやつながりを見つけ出し言語化するワークを行っていきます。

最終的には、子どもたちには一般化(概念的理解)をつくってもらいます。

◎ 概念的理解を促す問い
「なぜ、小さな対立から大きな戦争に発展してしまうのか?複数の戦争の事例をもとに一般化をつくってください。」

一般化を自ら複数の事例からつくりあげることで、自分なりにつくった一般化が、身の回りで起きている喧嘩や友人関係の対立の構造と似ているところに気づく学習者が出てきます。ここに、概念的な問いで概念的理解を学習者に言語化する価値があると考えています。そして、一般化をつくりあげたところで、いよいよPYPのカリキュラムの構成要素の1つでもある行動(アクション)のフェーズに入っていきます。

総括的評価課題(パフォーマンス評価課題)では、実際に自分たちでつくった一般化をベースに、身の回りで起きている対立の原因を分析して、実際に解決のためのアイデアを見出し、実際にアクションを行うワークを設定しました。この課題で実際にアクションができたのは全体の30%程であり、アクションした人は対立が解決に向かいましたが、アクションができなかった人たちの課題は半年以上経った今でも対立関係が続いていることから、対立を解決するための人々のアクション、努力が平和な暮らしを支えるという理解をユニットを終えてしばらく経った後に振り返るからこそ気づけることもあるのではないかと考えています。

事例の整理

私なりの事例の整理を行います。
「このユニットにおいて、学習者が育めるようにデザインされた知識、概念的理解、スキル、姿勢、行動は何だったのか?」ということです。

知識:
過去に起きた戦争の事例(18個:殆どを学習指導要領から抽出)
概念的理解:
戦争の原因をそれぞれが複数の事例から一般化したもの
対立へのアクションを通して得られた気づき(対立と努力と平和の関係性)
スキル:
複数の立場の視点で物事をみるスキル
複数の情報を統合するスキル
作者の意図と解釈を風刺画で表現するスキル
姿勢:
身の回りの対立を複数の視点でみる態度
身の回りで起きている対立に向き合う態度
行動:
実際に身の回りで起きている対立の解消に向けて行動ができる

この学習を通して設計者の意図としては、世界で起きている戦争に対して、事実関係をリサーチしないまま、片方の国が間違っていると判断するのではなく、それぞれの国に正しさや考えがあることを前提に、双方の視点で戦争の原因を分析し、自分なりに平和に向けた解決策を考えられるような態度を育めるといいなと考えていました。

今回紹介した実践は「社会科」という性質が強いユニットになったのですが、社会科の中でも、地理的な視点、歴史的な視点、政治的な視点などの複数のレンズを通して原因を分析したり、風刺画を用いることで、歴史的な事実を踏まえて自分なりの考えを表現する活動を通して、身の回りの対立に対して考える見方考え方を育むことを大切にしました。どこまでPYPが目指している「ケーキ」のカリキュラムになっていたかを評価することは難しいのですが、テーマを理解するために必要な教科の知識、スキル、見方考え方からカリキュラムを設計する実践の一部の紹介になりました。

最後に

また、今回シェアした資料の多くは、概念型探究を探究する、共に働きながら学ぶ「C.I.I=Conceptual.Inquiry.Institute」のメンバーと一緒に作成したものが多いです。今、C.I.IのメンバーとSpotifyで日々の実践の試行錯誤を放送しています。こちらも良かったらフォローしてもらえると嬉しいです。

次回のnoteでは、上で紹介したC.I.Iでつくりあげた教科融合のヒントとなる理論について講演で話したことをもとに紹介していきます。お楽しみに。

moimoi!

いいなと思ったら応援しよう!