飼育下におけるハンミョウの集団越冬
日本の昆虫の中でも指折りの美しさを持つ種であるハンミョウ(Sophiodela japonica)は土中で集団越冬をする生態が知られているが、自分は未だに野外でその光景を目にした事がない。
Twitterを含むインターネット上に僅かにそれを収めた画像が投稿されてはいるが、全てを合わせたとしても10例も存在しないのではないだろうか。
しかし、過去に飼育下で簡易的な再現(?)をする事ができた年があったので、今回はそれについて少しばかり書き残しておきたい。
2017年に飼育していたハンミョウ達は、秋が深まるにつれて一つのシェルターに集合する事が多くなる傾向が見られた。
他にいくつものシェルターがあり、野外において夜間の主な休息場所として利用している枝葉を投入したとしてもほとんど分散する事なく、決まって多くの個体が一つのシェルターに集合していた。
この時に「ハンミョウは先客である同種の越冬場所を嗅覚によって探し当て、集団越冬に至るのかもしれない」と考察するが、後に発売された書籍『日本のハンミョウ』(北隆館)ではその説が実際に立証されていた。
当時の自分は特定のシェルターでこの集合が起きる要因を、越冬場所を求めているためだと考え、それを基にハンミョウが好んで越冬するとされる『湿った崖』をイメージした簡易的なシェルターを作って設置した。
それ以降、ハンミョウ達は他のシェルターには目もくれなくなり、ほとんどの場合はこの崖シェルターに集まるようになる。
当時は飼育容器内のあちこちに産卵される事を防ぐために、産卵床として好まない粗い黒土を床材として使用し、乾燥気味に管理していた。
湿度が高い箇所は水容器周辺と、繁殖期にのみ設置していた産卵床(粒子の細かい赤玉土を湿らせて固く詰めたタッパー容器)くらいだった。崖シェルターも近しい土質と湿度で作られている。
そのためか、乾燥した飼育環境内に置かれた『ある程度の湿度を保ち続ける隠れ家』である崖シェルターは、ハンミョウ達が特に好む休息場所となっていたように感じる。
どうやら日増しに崖シェルターの穴は拡張されていたようで、入り口には均等なサイズに削られた土粒が目立つようになっていった。
また、入り口に大きな土粒を置いたが、これは毎日のようにシェルターの外へと押し出されていた。
途中からはハンミョウの生息地で発見したオオキベリアオゴミムシも同じシェルターで越冬させるという横着な管理をしたが、この穴に集う個体は全て問題なく越冬を終える事となる。互いに害を為す干渉は特に発生しないようだ。
ゴミムシ類は複数の種類が同じ場所で越冬を行う事もある。
共に斜面のような環境を好んで越冬するため、ハンミョウとゴミムシも野外において偶発的に同じ穴で冬を越す場面があるのかもしれない。
次回はハンミョウの集団越冬メカニズムについての軽い解説と、それを応用したマイマイカブリ用トラップ案についての考察を更新予定。
次回