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【100均ガジェット分解】(63)「ホームカラオケマイク」
本記事は月刊I/O 2024年6月号に掲載された記事をベースに、内容を追記・修正をして再構成したものです。
ダイソーでボイスチェンジャー機能を内蔵した「ホームカラオケマイク」を発見しました。今回はこれを分解してみます。
パッケージと製品の外観
パッケージの表示
「ホームカラオケマイク」はオーディオコーナーに並んでいました。本体価格は1000円(税別)です。
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パッケージの同梱物は本体と取扱説明書(日本語)です。
製品の納入者は「MAKER株式会社」(公式サイトなし)、製品自体は「made in China」です。技術基準適合証明番号(技適番号)もパッケージに表示されています。
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総務省の電波利用ホームページ(https://www.tele.soumu.go.jp/giteki/SearchServlet?pageID=js01)での検索結果では、技適の工事認証取得も「MAKER CO.,LTD」で適合性評価は米国MiCon Labsによる相互承認認証(MRA)となっています。
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取扱説明書に記載の製品仕様によると、Bluetoothバージョンは5.1、最大通信距離は約10m、800mAhのリチウムイオン電池を内蔵し、連続再生時間は約4-5時間です。
充電ポートはType-CですがUSB PD充電には未対応なので、充電にはUSB-A~Type-Cのケーブルが必要です。ちなみに充電ケーブルは付属していませんので別途準備する必要があります。
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操作は本体の3個のボタンで行います。取扱説明書には記載がないのですが、ボイスチェンジャーボタンの短押しで「ボーカルキャンセル」となりましたので、普通の音源でカラオケを楽しむこともできます。
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本体の外観
本体は長さ方向が190㎜とマイクとしては握りやすいサイズです。外装はABS樹脂製、スピーカとマイクの部分にはスリットが入っています。手に持った時の重量バランスもよくガタツキもありません。
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上部のマイク・スピーカ部の底面には技適番号が印刷で表示されています。
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本体の分解
本体の開封
持ち手部分の底面のキャップはネジになっていますので、回して外します。マイク・スピーカ部の外装の隙間に薄い金属ピックを差し込んでツメを外すと、内部のメインボードが見えるようになります。
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内部の黒いケースの5か所のビスを外すと持ち手部分が開封できます。持ち手部分の中には、円筒形のリチウムイオン電池があります。
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次の写真は内部の部品を一式取り出して並べたものです。各部品とメインボードはコネクタで接続されていて、簡単に分解・組立ができるような構造となっています。
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構成部品
リチウムイオン電池
リチウムイオン電池は円筒形の18650タイプ(直径18mm x長さ65mm)、容量は800mAhです。
製造年月(202401)も表面に印刷されています。
リード線は電池の電極に直接アーク溶接されています。
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スピーカー
スピーカーは直径50mm x厚さ35mm、負荷インピーダンス:4Ω、実用最大出力:5Wで、製品本体のサイズに対してかなり大き目のものが搭載されています。マグネットがむき出しの非防磁タイプですので、磁気カード等の近くに置かないような注意が必要です。
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マイク
マイクは直径10mm x 厚さ 5mmと小型のコンデンサマイクです。表面には風除けのスポンジが貼られています。
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メインボード
メインボードはガラスコンポジット(CEM3)の片面基板で全ての部品は面実装されています。
実装されている半導体部品はメインプロセッサとオーディオアンプです。
Type-Cコネクタは6ピンの充電専用タイプ、BTアンテナは逆F型のパターンアンテナとなっています。表面にはファームウエアの書き換え用のテストランドがあります。
プリント基板のパターンは片面ということもあり非常にシンプルで、コネクタの固定用のパターンをうまく使ってGNDと電源を接続しています。
プリント基板の型番「WND-430 MC873」と製造日(230424)はシルクで表示されています。
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回路構成
プリント基板のパターンから作成した回路図は以下です。
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ほぼ全ての機能はメインプロセッサ(U1)で実現されており、出力電力が大きいスピーカの駆動のみをオーディオアンプ(U4)で対応しています。
Type-Cコネクタから入力された電源(VBUS)はU1に直接接続されています。リチウム電池は800mAhと比較的大容量なのですが、充放電制御もU1が行っています。
U1の周辺部品はBluetoothの基準クロック用の24MHzの水晶振動子と内部で生成する各電源の平滑用のセラミックコンデンサのみで、非常にシンプルな構成となっています。
オーディオアンプU4の電源はVBATに直結、SD端子をVBATにプルアップすることで、電源OFF時はシャットダウン状態になるような構成となっています。
特徴的なのはType-Cコネクタ周囲の構成で、GND端子は未接続でコネクタの金属シールドだけでGND接続されています。
また、CC端子はCC1/CC2をショートした状態でまとめて5.1kΩでプルダウンされています。これは、初めてType-CをサポートしたUSB PD3.0が登場した当初によく見られた「間違った実装」で、このためにUSB PD対応の充電器でうまく充電できないという状況になっています。
主要デバイスの仕様
次に本製品の主要部品について調べていきます。
メインプロセッサ: AC6965E
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メインプロセッサは低価格帯のBluetoothオーディオ機器で非常によく見かける珠海市杰理科技股份有限公司(ZhuHai JieLi Technology, http://www.zh-jieli.com/)製のBluetooth内蔵マイクロプロセッサ「AC6965E」です。
この型番はメーカーの製品一覧には存在しませんが、データシートは設計会社(方案公司)である深圳科普豪电子科技有限公司(https://www.kepuhaodianzikeji.com/)から入手できます。
https://www.kepuhaodianzikeji.com/newsinfo/5621864.html
32bit RISC CPU + DSP(最大160MHz動作)、電源生成用のLDO、USB OTGコントローラ等の各種ペリフェラルを内蔵し、Bluetooth V5.3をサポートしています。
オーディオ出力は1チャンネルのみ(左右ミックス出力)で、シングルスピーカの製品専用SoCです。
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オーディオアンプ HAA2018
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オーディオアンプは「HAA2018」です。同じ型番・機能のものが各社から出ていて、データシートは深圳市矽源特科技有限公司(Shenzhen ChipSourceTek Technology Co.,Ltd. http://www.chipsourcetek.com/)のものが以下から入手できます。
http://www.chipsourcetek.com/Uploads/file/HAA2018.pdf
AB級/D級切換機能付の単チャンネルオーディオアンプで本製品ではAB級動作で使用しています。シャットダウン時の消費電流は0.1uA(typ)と非常に低消費電力となっています。
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Bluetooth接続情報の確認
今回も「Bluetooth Scanner Finder」で接続情報を確認しました。
名前は「Music MIC」、プロファイルは「ヘッドセット」、サポートするコーデックは一般的な「SBC(Sub Band Codec)」、プロトコルは「Classic(BR/EDR)」でした。
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まとめ
Type-Cコネクタ周辺の設計を除けば、メインプロセッサ内蔵のDSPで全ての機能を実現、スピーカやリチウムイオン電池といった部分にはきちんとコストをかけていてバランスがよい設計という印象でした。それにしても、このような製品向けに専用のSoCを作っている珠海市杰理科技股份有限公司(ZhuHai JieLi)の対応範囲の幅広さには感心させられました。
最近の100円ショップのガジェットでは見かけることが少なくなってきた「ユニークなジャンルの製品」なので、今後もこのような面白い機能を持った製品が登場することを期待しています。
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