【100均ガジェット分解】(46)PD PPS対応「超速充電器PD+Quick Charge」
※本記事は月刊I/O 2023年1月号に掲載された記事をベースに、内容を追記・修正をして再構成したものです。
今回はUSB充電規格「USB PD」の拡張機能である「PPS」に対応した「超速充電器 PD+Quick Charge」を分解します。
パッケージと製品の外観
「超速充電器 PD+Quick Charge」は「USB Power Delivery Rev3.0 Ver1.1」で追加された出力電圧を任意に変更できる拡張機能「PPS(Programmable Power Supply)」に対応しているということで、一部のマニアの間で話題になりました。
同じものがダイソーとキャンドゥで販売されていて、販売価格は他のUSB PD対応急速充電器と同じ700円(税別)です。今回はダイソーで購入したものを分解してみました。
パッケージ裏面に表示された仕様によると入力電圧は「AC100-240V」、Type-Cポート(USB PD3.0)は「5V/3A, 9V/2.22A, 12V/1.66A(=20W)」,Type-A(QC3.0)は「3.6V-6V/3A, 6.1V-9V/2A, 9.1V-12V/1.5A(=18W)」, 2ポート同時使用時は「5V/3A(=15W)」となっています。
「PPS」対応については特に記載はありません。
本体の分解
パッケージの内容
パッケージに入っているのは本体のみです。
本体にはTYPE-CとType-Aの2つの出力ポートがあり、それぞれに「PD」「Quick Charge 3.0」の表示があります。ACプラグは折り畳み式です。
「PSE」マークは本体に印刷されています。輸入販売元は「株式会社ラティーノ」です。
ただ、本体の定格表示にも「PPS」対応の記載はありません。
本体の分解
本体ケースは接着されているため、接着部分をカッター等で切断して開封します。内部は「ACプラグ」と「プリント基板」で構成されておいます。ACプラグは折り畳み式で基板とは電極で接触して接続する方式となっています。
プリント基板は3枚構成、「メインボード」に差し込む形で「AC入力サブボード」と「Type-Cサブボード」がハンダ付けされています。電源の1次側(ACコンセント側)と2次側(USB出力側)の間には絶縁シートがあります。
基板構成
メインボード
メインボードはガラスエポキシ(FR4)の両面基板です。写真はメインボード表面の主要な実装部品を記載しています。電源トランスの2次側はピンではなく巻線を引き出して直接プリント基板にハンダ付けをしています。
メインボード裏面には型番「PD20W A+C」と基板の製造日「20201022」の表示があります。
大電流が流れる部分はGND電流のルートを制御するためにパターンにカットを入れ、さらにハンダ盛りと両面パターンをスルーホールで接続してインピーダンスを下げています。1次側~2次側の絶縁距離を確保するためのスリットもあり、電源回路の基本をおさえた設計となっています。
AC入力サブボード
AC入力サブボードはガラスエポキシ(FR4)の片面基板です。実装されているのはAC整流用のブリッジダイオードとACヒューズのみで、本体の小型化のために別基板にしたと思われます。
Type-Cサブボード
Type-Cサブボードはガラスエポキシ(FR4)の両面基板です。表面にはUSB TYPE-Cコネクタと充電コントローラが実装されています。
裏面には単体の型番「KRAC20W-A VER 1.0」の表示があります。裏面にはType-A及びType-Cコネクタへの充電電源(VBUS)出力をON-OFFするための8ぴパッケージのパワーNMOS FETが2個実装されています。
回路構成
基板パターンより回路図を作成しました。
1次側(AC側)の構成は電源回路としては一般的な構成になっています。電源制御IC(U1)は電源トランス(T1)のスイッチング用のFETとコントローラがワンチップになっています。2次側(USB側)の出力電圧はフォトカプラ(U2)を経由して電源制御IC(U1)のフィードバック端子に入力して制御しています。この構成は出力電流の変動に対して出力電圧の安定度がよくなります。
Type-Cサブボード上のUSB充電コントローラ(U6)がType-CおよびType-Aに接続されたデバイスを判別し、規定の出力電圧になるようにシャントレギュレータ(U4)の基準電圧Vrefの制御を行っています。
主要部品の仕様
次に本製品の主要部品について調べていきます。
電源制御IC(U1) CX7527C
電源制御ICは「深圳市诚芯微科技有限公司(http://cxwic.com/)」製のPD電源コントローラ「CX7527C」です。概略の仕様は以下より入手できます。
電源スイッチング用のMOS FETと制御ロジック回路がワンチップになっているオールインワンのICです。
同期整流IC(U3) CX7538B
U3は上記CX7527Cとセットで使われる「深圳市诚芯微科技有限公司(http://cxwic.com/)」製のスイッチング電源二次側同期整流整流IC「CX7538B」です。概略の仕様は以下より入手できます。
内部の制御ロジック回路が内蔵MOS FETのソース-ドレイン電圧を検出してON/OFFのスイッチング制御を行っています。
USB充電コントローラ(U6) IP2726
充電コントローラは「深圳英集芯科技股份有限公司(http://www.injoinic.com/)」製のUSB急速充電プロトコルコントローラ「IP2726」です。データシートは以下より入手できます。
http://www.sz-dowell.com/a/products/chanpinpdf/IP2726.pdf
対応するプロトコルは「PD2.0/3.0/PPS, QC4/QC4+, FCP, SCP, AFC, MTK PE+ 2.0/1.1, Apple, BC1.2」となっています。
データシートは1ポート対応ですが、本製品ではNC端子を使用して2ポートの制御をする「カスタム仕様」となっています。
Type-CとType-Aの両方にデバイスが接続された場合には出力電圧は5Vに固定されます。
シャントレギュレータ(U4) TL431
U4は基準電圧用のシャントレギュレータ「TL431」です。同じ型番で複数の会社から販売されている汎用品です。データシートはTEXAS INSTRUMENTSのものが以下より入手できます。
https://www.ti.com/lit/ds/symlink/tl431.pdf
USB充電出力電圧に合わせて基準電圧Vref= 2.495VとなるようにUSB充電コントローラが制御しています。
USB充電プロファイルの確認
次に本製品のUSB充電プロトコルを確認してみます。チェックには「WITRN U3(https://www.shigezone.com/product/witrn_u3/」を使用しました。
USB PDパワールール(PDO)の確認
まずはType-C側がサポートしている充電規格の確認結果です。USB PDの他に複数の急速充電仕様に対応しています。
Type-C側のUSB PD PDO(Power DataObjects)の確認結果です。仕様である「5.0V-3A,9.0V-2.22A, 12.0V-1.66A」に加えて、「PPS 3.3-11.0V/2A」をサポートしています。
実際にPPSで電圧設定を振ってみた結果を以下に示します。3.3V設定では電圧が3.7Vまでしか下がりませんでした。3.7V以上の設定では設定した電圧が出力されているのが確認できました。
Quick Chargeサポートの確認
次はType-A側がサポートしている充電規格の確認結果です。製品仕様であるQC3.0をはじめ複数の急速充電仕様に対応しています。
実際にQC3.0で電圧設定を振ってみた結果を以下に示します。ほぼ設定通りの電圧が出力されているのが確認できました。
出力電流-電圧特性の確認
電子負荷を使って実際にどれくらいの電流まで出力できるかをUSB PDのPDOである5V, 9V, 12Vのそれそれで測定しました。点線は定格出力電圧+/-5%のラインです。いずれも定格電流内での出力電圧は十分安定しています。過電流保護特性も良好です。
ちなみに、最大電力である12V/1.66A(20W)出力時でも本体の温度は手で触ってもほんのり暖かくなる程度でした。
まとめ
カスタムされたUSB充電コントローラやPD電源コントローラ用のチップセットといった専用部品が最近の中国のエコシステムらしいと感じました。
プリント基板や出力電流特性・過電流保護動作という電源の基本はきちんと押さえているので、USB PD PPSで電圧が3.7V以下に下がらないという問題はあるものの、1,000円以下で「出力電圧が可変できる2A出力電源」が手に入るというのは非常に魅力的です。