じゃない方ゲー人による、平成ゲーム業界回顧録 #26
1993年、1月。
年が明け、いよいよ「ドラゴンズ・アース」は発売の時を迎えた。
発売に当たり、サンプルROMをゲーム誌の編集部に送ると、レビュー記事の校正が上がってきた。
そう。ゲームファンなら誰でも知っている"ファミ通"こと、「ファミコン通信」の”クロスレビュー”だ。
雑誌の編集者4人がレビュアーとなって10点満点で評価を付けるこの人気コーナーは、読者がそのゲームを購入する上での判断材料として大きな影響を与えており、良い評価が付いたものが必ずしもヒットするとは限らなかったが、ここで悪い評価が付くことで、そのゲームに注目していた人が購入を見送るというのは自分の経験からしても十分に考えられたと思う。
そんな、運命の審判ともいえる「ドラゴンズ・アース」のレビュー評価だが、結果は、6、7、6…といった「悪くはない」という、なんとも微妙な採点だった。
評価コメントには「理解したら面白い」「普通に良くできてる」といった好意的なモノもあったが、やはり「操作が分かりづらい」「システムが難解」という点ではどのレビュアーも意見が一致しており、客観性を担保するため基本的に減点法で採点されているクロレビでは、ゲーム内容的に多少不利な状況になってしまっていたと思う。
とは言え、完全新規のタイトルでは、高得点の目安となる8点以上の評価がないと注目を集めるのは難しく、Y田さんは本来の校正目的の記事コメントの誤りなどの指摘ではなく、ダメ元で採点に対して「誰か8点に評価を改めてくれないか」交渉してみると言い出した。
当時、ファミ通に見開きや表紙裏など高額な広告枠を押さえている出稿元の大手メーカーのゲームはレビューの採点が1点上がるなんて噂がまことしやかに語られていたが、ウチも広告は出していたもののそこまで大手ではないし、何を言い出すのかと驚いた。
だが、コメントに誤りがあり、それが理由で評価を下げていたとかならまだしも、そんな評価の正当性を左右するようなムチャなお願いが通用するわけもなく、採点が変わるようなことはもちろん、なかった。
僕は「ドラゴン~」の評価が微妙だったことは厳粛に受け止めたが、噂の真偽はさておき、安易に採点が変わらなかったこと自体は、編集部が皆、信念をもって評価しているんだなとむしろ好意的に感じていた。
そして、レビュー記事の載った雑誌が間もなく発売されると、その翌週には「ドラゴンズ・アース」自体のゲームも発売された。
今のスマートフォン向けのゲームと異なり、開発完了から実際の商品が発売されるまでにタイムラグがあり、またインターネット前夜でユーザーの反応もリアルタイムに入ってこない状況だったから、発売時の熱量や直接のユーザーの反応がどうだったのかは正直分からない。
ただ、展示会での出来事はずっと心に引っかかっており、もう2度と同じ思いはしたくないと、あの時の苦い思い出は以降の開発における判断基準として常に意識するようになっていった。
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