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じゃない方ゲー人による、平成ゲーム業界回顧録 #25

展示会でのユーザーの渋い反応を胸に、僕はいわゆるチュートリアルなど、初心者向けの改善策を検討し、実装に向けた提案をY田さんに相談した。

最初は親身になって聞いてくれていたY田さんだったが、スケジュールに影響が出る旨を伝えると、態度を硬化させて難色を示した。

実は、Y田さんはプロジェクトの進捗について会社から度々プレッシャーを掛けられていて、NPCがプレイヤーにきちんとついてこず、グルグルと同じところを回った挙句、自ら投身自殺してしまうなど、いまだに完成の目途が付いておらず、展示会にも粗が見えない様に編集したビデオ紹介のみという形でプレイアブル出展が叶わなかった「セプテントリオン」との同時発売はあきらめ、完成が見えてきている「ドラゴンズ・アース」を一刻も早く発売する方針で動いていたのだ。

当時はゲームのカセットの生産に数か月単位の時間が掛かり、人気が出て再販してもブームが過ぎて売れ残るなんてことがザラだったため初回生産に力を入れる必要があり、スペースワールドに合わせて小売りにアピールするためにCMを流して注文を集め、実際の商品の発売時にはまともな宣伝がされないなんてこともまかり通っていた。

つまり「ドラゴン~」も商談の一環としてスペースワールドに出展されており、今更スケジュールが変更になるのは会社の業績にも影響が出るので不可能という回答だった。

Y田さんは現場に無用な心配は掛けさせまいと、こうした事情を伏せていたのかもしれないが、ずっと開発を見ていた僕は「ドラゴン~」が一見完成に近づいているようでも、システムを理解して「なるほど分かった、さあ、楽しむぞ!」となった後の奥行きの面でまだまだ十分でなかったことや、逆に「セプテン~」が歩みは遅くても一歩一歩着実に完成度を上げていて、あからさまにおかしなバグを除いて純粋にゲーム部分を見つめれば、これまでにないゲーム展開が楽しめる新機軸の作品になりつつあることも良く分かっていた。

だが、実際のところ「セプテン~」のデバッグ(不具合修正)作業がいつ収拾するのかわからなかったし、「ドラゴン~」がこれ以上劇的に違いを感じられるほど奥行きを持たせるには相応の時間が掛かることは分かっていて、また現実的に使える時間ではそこまで評価に差がない範囲の改善に留まるだろうというということも理解していた。

僕も新人で会社から示された方針と判断に真っ向から抗えるほどの度胸も、時間をもらえれば損失を跳ね返すほど面白くできますと言い切れるほどの自信も持ち合わせておらず、スケジュールについては妥協してその範囲でできるだけ改善を図り、ゲームの完成を第一義に目指すことになった。

開発の後半は作業時間が足りず、アイデアも尽きてきてラストステージが見た目のおどろおどろしさに反してギミック少なめのさっぱりしたステージになってしまったりと歯がゆさも残ったが、「ドラゴンズ・アース」はデバッグ作業も終えて、何とかゲームの完成にこぎつけた。

作業が大詰めの中、スクールの同期だったデザイナーが全国キャラバン(ハドソンのシューティングゲーム大会)に参加するといって休暇を取ったことには腹が立ったが、メンバーの皆は作品の完成のために本当に良く力を尽くしてくれたと思う。

終盤に作成したエンディングはゲームの設定からこじつけたストーリーを解決するためのちょっと強引な展開だったのだが、例によって雰囲気は出ていたせいかK太君はいたく気に入ってくれて「やってくれたな」という感じで褒めてくれた。

スタッフロールに自分の名が刻まれるというのは、個人でゲームを作っていた時には描いた絵にサインを入れるくらいの感覚だったが、みんなの名前と一緒に載るとなると責任も感じられ、本当に完成したんだなと緊張を新たにした。

#創作大賞2023

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