じゃない方ゲー人による、平成ゲーム業界回顧録 #27
1993年、5月。
「ドラゴンズ・アース」の発売から遅れること4か月、A部君が視力を犠牲にしてモニタと睨めっこしながらなんとか不具合を収拾させ、先に開発が終わったドラゴンチームもテストプレイを手伝ったりしながら、「セプテントリオン」もついに完成して、無事発売されることになった。
まだ若干危なっかしいところもあったが、NPCの動きも安定し、マップのハマりポイントも解消した「セプテントリオン」の舞台、豪華客船”レディ=クリサニア号”の船内はクラシカルな雰囲気のグラフィックで表示され、快適に歩き回れるようになっていた。
また、表示される乗客の台詞などのフォントも映画の字幕を意識したデザインで、登場人物の会話もただの説明台詞じゃないウィットに富んだひねりのあるやり取りが繰り広げられるなど、こだわりが感じられる出来栄えだった。
さらに、難易度こそ高かったものの、1時間で沈没するというのが初めから決まっている、繰り返しプレイ前提のサドンデスルールで、失敗して覚えていくいわゆる”死にゲー”の設計だったため、やりがいを感じられるゲームでもあった。
反面、ゲームっぽさは極力排除されており、体力はあるが表示されず、いわゆる”残機”設定も存在せず、プレイヤーがダメージや落下でミスになると5分ペナルティとなり、沈没までのカウントダウンが短くなるというルールだった。しかもNPCは死んだらおしまいで復活しないため、その時々に連れている仲間に合わせてイベントを発生させたりしながら脱出を図る、ライブ感のある展開を楽しめるようになっていた。
K太君はしぶとく最後まで調整を続けていたが、いよいよ待ったなしとなり、最後は”締め切りだから終わり”という感じで、半ば強制的にマスターアップ(開発完了)となった。
そして「セプテン~」も「ドラゴンズ・アース」同様、ファミ通のレビューを受けることになるのだが、その校正記事のチェックでは、開発チームもあっと驚く衝撃の結果が待っていた。
なんと、レビューの採点は8点どころか、9点のレビュアーもいる高評価で、合計32点の”ゴールド殿堂入り”という表彰入りの快挙を成し遂げたのだった。
前回、減点法で採点されるという話をしたが、逆にレビュアー自身が強く推したい深く刺さる要素があった場合は加点するというような伝統があり、クロスレビュー自体そうした主観を平均化するための仕組みだったが、稀に業界の発展のためにこのゲームを評価したいといったタイトルがあると、複数のメンバーが加点した結果、完成度に関わらず高評価となるケースもあった。
「セプテン~」も評価コメントでは難易度や操作性について苦言があったが、それを補って余りある臨場感や斬新なシステムを評価する声が多く、これまでにない視点と感性が評価された結果、大手メーカーの大作ゲームでしかなかなか到達できないような”殿堂入り”を果たすことができたのだ。
だが、皮肉なことに当初の予定から発売時期がずれたことや、事前に小売りにゲームのセールスポイントを理解させることができなかったことで受注自体は芳しくなく、販売本数としては「ドラゴン~」よりも少ないものに留まり、「セプテントリオン」は知る人ぞ知るカルト作として、一部のゲームファンの間で話題になるようなタイトルとなっていった。
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