じゃない方ゲー人による、平成ゲーム業界回顧録 #12
提出した企画に自信があるとかは正直よくわからなかったが、数多くのキャラクターが同時にリアルタイムに動いたり、巨大ボスとしてのドラゴンとのバトルなど、個人で作るなら断念してしまうようなアイデアを気にせず膨らませられたので、満足はしていた。
休みが明け日常に戻り、プログラム課題で「自分を追尾する誘導弾をかわして敵にぶつけて攻撃する」というコンセプトの対戦ゲームを企画して作ったり、放課後はアシスタントの仕事でカラー原稿にチャレンジして、調子に乗って自分なりの表現に拘った結果、全ボツを食らってしまうなど変わらぬ日々を過ごしていた。
そして提出企画の審査結果発表の時が訪れ、自作の「ドラゴンズヘブン」が優秀作として認められたことが発表された。
僕は、自分の企画が評価されたこと自体はもちろん嬉しかったのだが、事前に話を聞いていた他の応募者の企画にピンと来るものが少なかったことや、義務的にペラ1~2枚の企画を提出している生徒が多かったりと、雑誌に投稿したゲームプログラムが最初に掲載されたときに感じた「単に競争率が低かっただけでは?」という疑念も生まれてしまい、素直に喜べないでいた。
だが、その後に知ったある事実によって、企画選出の結果云々関係なく、僕は俄然やる気がみなぎることになった。
実は、この年はもう1作優秀作として選出されており、それが僕と同様にこのコンペに並々ならぬ情熱を注いでいた、K太君の提出した「セプテントリオン」という作品だったのだ。
僕はその結果に驚きとともに、どこか当然というかやっぱりなという想いも抱き、K太君とお互いの健闘を讃え合うと、すぐに提出した企画書を見せてもらった。
「セプテントリオン」は映画「ポセイドンアドベンチャー」をモチーフにした、転覆する豪華客船からの脱出を描いたパニック物のアクション・アドベンチャーゲームだ。
しれっと”パニック物”と書いたが、ゲームのジャンルとしてそれまでそういった類のものを僕は見たことがなく、面白いとか新しい以前に、そんな題材がゲームになるの?という疑問の方が先に立つ印象だった。
それに、グラフィックが写実的な表現のゲームもない訳ではなかったが、家庭用ゲームでは大抵がミリタリー物のシューティングゲームで、クラシックな雰囲気のものは、パソコン向けのアドベンチャーゲームくらいでしか見かけなかったように思う。
当時はファミコンからスーパーファミコンへの移行期で、ゲームセンターでもようやくビジュアルでストーリーを語れるようなものが出てきたタイミングだ。それまでのゲームはルールが優先され、世界観や設定といった要素は二の次になることが普通だった。
また、映画を題材にすることはあっても、ほとんどがSFやアクション映画で、ストーリーは良くて紙芝居、中身はありきたりのシューティングやアクションゲームで変わり映えしない、というのが一般的な感覚だった。
そんな中、メカやヒーローもエイリアンも出てこない市井の人が主人公で、何を倒す訳でもなく脱出が目的のゲームなんて何が面白いのか訳が分からなかったが、企画書を読んでみると、これが実にゲーム的発想に裏付けられたルールになっていることが分かり、唸らされる内容となっていた。
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