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じゃない方ゲー人による、平成ゲーム業界回顧録 #13

今回の企画提出課題はスーパーファミコンでの開発を前提に実施されていたのだが、スーパーファミコンにはファミコンからの進化ポイントの目玉として「画面の回転・拡大/縮小」という新機能が備えられていた。

スーパーファミコンの発売当時、ボスが拡大したり、回転しながら迫ってきたりといった、これ見よがしにその機能を使った演出が使われているゲームがたくさん発売されたので、覚えている人もいると思う。

自分もそれは意識していて、フィールドに奥行きを持たせた3D表現をイメージして企画していたが、K太君は「画面の回転」を見下ろしではなくサイドビューで扱い、天地をひっくり返すことで船の転覆を表現しようとしたのだった(発想としては、回転から転覆を思い付いた流れだとは思うが)。

プレイヤーはゲームの導入部では転覆前の通常の船内を移動することができるが、船が座礁して徐々に傾くと火災や浸水、重力などの障害により移動できない場所が出てくる。そして、時間が経過して完全に船の天地が入れ替わると、マップの見え方も180度変化するため、目的地への行き方も考え直さなくてはいけないという、パズルのようなゲーム性も持ち合わせていた。

彼の企画のすごいところは、こうした大きなコンセプトに対して、一つ一つ突き詰めて要素を積み重ねられるところだ。

例えば、プレイヤーはそれぞれスタート位置もシナリオ上の目的も異なる4人の乗員となっていて、好きなプレイヤーを選んでゲームを開始できるが、彼らには治療やマップを最初から持っているなどそれぞれ得意な能力があり、クリアへの最短ルートもバラバラになっていた。

そして、あるプレイヤーを選択しても他の3人はNPC(ノンプレイヤーキャラクター)としてゲームに登場し、会話やイベントを通じてそれぞれのプレイヤーのストーリーを別視点で楽しむこともできる他、それがさりげなく彼らをプレイヤーとして使用する際のヒントになっていたりと隙がない。

また、ゲーム中に出会った他の乗客を引き連れて移動できるのだが、彼らの救出はマストではなく、ゲームをクリアするだけなら自分一人で脱出する方がよほど簡単という内容になっていた。その代わり、「プレイヤー毎のストーリー上の目的を達成し、より多くの人を救うことで真のエンディングに辿り着ける」というギミックが用意され、遊びの幅を持たせていた。

いや、それ以上に「自分の利のために目の前の人を見捨てられるのか?」といった、システムで感情を呼び起こせるゲームデザインが、僕には非常に優秀に感じられた。

今でこそゲームもその表現力が向上して様々なモチーフを題材に作品が作られるようになったが、彼は当時からゲームを単なる遊びではなく文化として捉え、映画や小説など、いろんな文脈から題材を取り込んでおり、僕は自分にはないその視野の広さに、もはや嫉妬するでもなく素直に脱帽していた。

#創作大賞2023

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