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じゃない方ゲー人による、平成ゲーム業界回顧録 #21
年が明け、卒業制作としてのお互いのプロジェクトは混沌とした開発状況を迎えていたが、完成の目途と言う点では共にスクールの卒業までに間に合うような状況でないことは明らかだった。
実際、放課後の限定的な時間での開発では作業時間に限界があり、まとまった時間を取って集中的に開発を進めるというのも不可能だった。
スクールもその点は想定していたのか、卒業までに無理しての完成は目指さず、4月以降も本社で引き続き開発を進める方針が示され、メンバー一人一人に卒業後に本社へ就職して開発を続けるかどうかのお伺いが立てられた。
この時、こだわりを持って就職先を決めていた生徒や、同人サークルで活動していた一部のメンバーは回答を保留していたが、K太君やメインプログラマ2人を含む大半のメンバーは引き続き、開発メンバーとして参加することを表明した。
学生プロジェクトに参加している時点でどうしても就職活動はおろそかになるわけで、今思えば、プロジェクト自体がスクールにとっては開発経験も踏ませた上での効率的なリクルートだったと思うが、自分も別に特に限定した就職先の希望があったわけではなく、渡りに船という状態ではあったのだが、一つだけ問題があった。
そう、学生プロジェクトの開発と並行して活動していた、漫画のアシスタント業務をどうするかということだ。
バイトの掛け持ちという形であれば、時間の融通も利くため2つを両立させることも何とか可能だったが、すでに無理がたたって朝起きられずスクールに遅刻することもあったくらいだ。
まだ若かったのと、言葉にするとなんだか胡散臭いが、一言でいうと熱意があったので疲れるとかしんどいとかはあまり感じていなかったが、就職しての開発となると残業も普通に考えられ、単純にアシスタントに裂ける時間が取れなくなることは明白だった。
まだアシスタントとしても一人前になっておらず、漫画自体でも結果を出していない状況でその道をあきらめるというのも非常に心苦しく、かなり悩んで、アシスタントの現場に足を運んでもなかなか集中できない日々が続いていた。
そんな中、E川先生のアシスタントの現場に、後に新田次郎原案の『孤高の人』という作品で人気作家の仲間入りをすることになる、新人のS本君がやってきた。
彼は関西弁の陽気なあんちゃんで、親しみやすい性格でよくみんなにイジられていたが、漫画に対する情熱は本物で、すでに新人漫画賞も取っており、才能だけではなく、最初からプロデビューしか考えていないという真剣さに溢れていた。
アシスタントとしては自分の方が先輩ということになるが、来た時からすでに絵は上手く、アシスタントも連載に向けた現場の知識や経験のためといった雰囲気だった。
自分はあくまで「教えてもらう」という受け身のスタンスだったが、彼は見た目の温和な印象に反して漫画に関しては「奪い取ってやる」くらいのギラギラした感覚で挑んでおり、僕はその姿に正直当てられてしまっていた。
そして、彼を見て「敵わないな」と自覚したのと共に、自分もゲームに関しては「教わろう」なんて考えたこともなかったことに気づかされ、何となく分かっていたものの決心が付かなかった自分の気持ちに整理がついた。
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