聞く側の意図することを判断する

地域で手話通訳をしている。
病院通訳の機会も多い。
生活習慣病の場合、問診で「いつも何を食べていますか?」的な質問から始まる。
問診の目的は「患者の食習慣の悪いところを聞き出して、抑制を促す」こと。

・毎食の食事の量が多すぎているのでは
・濃い味付けや塩分の多い味噌汁や麺類のスープを飲みきっているのではないか
・油の多い揚げ物、唐揚げなどを頻繁に食べているのではないか
・野菜が少ないのではないか
・炭水化物ばかりを摂っているのではないか
・甘いものを習慣的に摂っているのでないか
・本人は体に良いと思って、スポーツドリンクや甘い野菜ジュースを摂っているのではないか

書き上げていてもきりがないが、
高血圧や尿蛋白が見つかるなどの生活習慣病で病院に来たのなら
塩分過多、食べ過ぎ、バランスの悪さ、油の摂りすぎ、糖の摂りすぎ
などを指摘するところから問診が始まる。

手話通訳はここで「いつも何を食べていますか?」と伝えると
この質問にろう者は何と答えるか。
昨夜のメニューをこと細かく思い出しながら説明してくれる。
医師によく思われたいという意識が働らくと
少しヘルシー気味に話を脚色することだってある。

患者をたくさん抱える内科医は、そんな話につきあってはいられない。
医師が聞き出したいのは、あなたが通院することになってしまったからには「あなたの食習慣の何がいけなかったか、見つけ出しましょう」と言いたい。
ラーメンはスープの最後の一滴まで飲み干すのか。ほとんど外食なのか。さしみはしょうゆをたっぷりつけるのか。野菜より炭水化物や肉中心になっていないか。濃い味付けが好きなのではないか。健康飲料という名の甘い飲み物を毎日買って飲んでいないか。1日の食事の総量が必要量より多いのではないか。
本人から聞き出したいこともまた、きりがない。

両者の質問の意図を認識して伝えるのも、手話通訳の仕事だ。
この言葉をそのまま伝えたところで
言語文化が違うろう者に、医師の意図を見抜くのはほぼ無理。
聞こえる人でも、難しい場合もあるだろう。
それでも、どちらの考えもわかりあえるように、意思や意味が伝わるように努力しつつ、今日も病院通訳に勤しむ。

先日 お友達との会話。
私は最近
ごはん・パン・麺。それからお菓子を
食べないようにしているのよ。と私

ダイエット情報に無縁で無関心な、ろうの彼女が私に聞いたのは
「パン、めん、ごはんを抜いているって、じゃあ、揚げ物はどうしているの?」

私「揚げ物?んー、(最近食べたメニューを思い出しながら)チキンカツとか、食べてるよ」

なんか、かみあっていない会話である。
今私の中でダイエットといえば
・16時間断食で朝ごはんを抜く
・糖質制限で炭水化物を抜く
・グルテンフリーで小麦を排除する

ダイエットに無縁な彼女の意識には多分
・断食
・油もの抜き
のイメージがあったのでは。

あの時、私は答えるべきだったのは
「ダイエットだけど、油ものの制限は一切していないのよ」と
答えるべきだったのだと。
それから糖質制限の話を少し付け加えるべきだったのかも。

相手が揚げ物と聞いたときに、具体的にチキンカツとか答えた私。
これも、相手の質問の意図が掴めてなかったな。と気がつくのは、早くてもその翌日なんだな。

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