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caramel・mama

今日は金曜日。

ここに来るのが私のささやかな楽しみだ。

ミントグリーンとピンクの外観。
1度見たら忘れられない、
駅裏にて、一際目立っている。
看板の中で笑うマリリン・モンローが
私を誘う。
ネオンに縁取られた文字は、
「caramel・mama」

わたしの地元に根付くカフェ・パブだ。

扉を押してお店に入る。
まず目に入るのは大きい緑の電話ボックス。
2人分の上着がその中に掛けられていて、
カウンターには常連さんが2人。

中の壁も激しいミントグリーン、
カウンターはピンク。

壁にはたくさんのアメリカンなポスター、
ロンドンバスの置物、
自由の女神のオブジェクト、
コカコーラの瓶、
マリオのフィギュア、謎のぬいぐるみ、
音楽プレーヤーがたくさん、
あとクロスジウミウシ(クロスジウミウシ⁉︎)

とにかくアメリカンで、雑多で、ポップで暖かい。

奥にはポスターの中笑う、
マリリン・モンロー、マリリン・モンロー、
マリリン・モンローに
オードリー・ヘップバーン。

私は、
口紅をしないマリリン・モンローが好きだ。

もっとも、口紅をしていない彼女など
見たことはないのだけど。

「作品」でない彼女はどんなに美しいかと思う。
赤いリップと派手な衣装で着飾る前の、
もっと生まれたてで無垢な少女の彼女を思う。

いいや、あの口紅と衣装がなければ、私は彼女をマリリン・モンローだと認識できないであろう
事実には悲しく思うけれど。

(私の中で勝手に)悲劇の女になった
マリリン・モンローからは視線を逸らし、
きょろきょろと、あるいは店内の雰囲気をゆっくりと味わうように目線を切り替えつつ、
足をすすめる。

今日はカウンター席に座る。

外観に惹かれて入って、
暖かみとブラウニーに心を掴まれて、
3ヶ月前から常連を目指して通いつめている。

とはいえバイトもしない女子高生はお金がないのでここにくるのは月1、2回。
まだ3回しか来ていない。
まだまだ顔も覚えられてないかも。

こういうところに来たら萎縮してしまって
全然喋れないと言う事実に、
なんだかんだ私は背伸びをしただけの
子供なのだなと小恥ずかしく思う。

ただぼーーっとしてるだけだけど、
なんか居心地が良い。
常連さんが頼んだであろうミートスパゲティーのいい匂いがしてくる。

腹の虫が暴れ出す前に、なにか食べよう、!

カラフルでポップなメニュー表を手にして考え込む。

私はここのケーキを制覇すると決めているので今日はバナナチーズケーキ。

少ししてママがケーキを出してくれる。
目の前のチーズケーキはシンプルながらきめ細やかな表面で、カウンターの照明に照らされてきらきらしている。

熟したバナナとクリームチーズの上部と
クッキーの土台を一緒に食べると、
なんの気負いもない、
あたたかみのある甘さが広がる。

ゆっくり味わって食べたいけれど、
ぱくぱく口に運んでしまう。
これは、ホールでいける。

ふと目の前が白む。
何かと思うと煙草の香り。

常連さんがふかした煙草はわたしの目に、鼻に
その煙の存在を知らせる。

なかなかの至近距離の煙だけど、
不思議と悪い気はしなかった。

むしろなんか、ここで煙にふかれる私はなんだか大人に思えて。

常連さんの会話に加わる勇気はないけど、
この雰囲気が好きだと思った。

おや、チーズトースト450円。

む…



学校帰りの空腹に耐えきれず、
チーズトーストも注文してしまった。

少しして、バターのもったりした匂いが鼻をくすぐる。
バナナケーキも食べたのに、腹の虫はその匂いを嗅ぎつけて暴れ出す。

いよいよ目の前に現れたそれをひとくち頬張る。
少し厚めのトーストに、溢れんばかりのチーズ、チーズ、チーズ、チーズ。

母性!

美味しいとか、温かいとかしょっぱいじゃない。
母性。という感想。

1人カウンターでミニミニのパソコンを打つ私に、
「お仕事?」と聞いてくれる、ママの母性か、

あるいはこのチーズ、もとより牛の乳の、
我が子に与えられなかった母性を
ここでぶつけてきたのか。

なんにせよ、美味しい。

私はやはりこの場所が好きだ。
3回しかきたことがないけれど、
ここには人の営みがある。
どこかいつも閉塞感を感じる学校に比べて、
ここは自由な人ばかりだ。

ここには
人生に優劣なんてなくて、
若さは実はあんまり価値ではないし、
熟したバナナは美味しくて、
溢れるほどのバターとチーズが乗った
トーストには1週間の疲れとか、
葛藤とかネガティブな全てを吹き飛ばしてくれる力があると気づかせてくれるあたたかみがある。




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