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ネタバレあり読書感想文『本と鍵の季節』

『本と鍵の季節』 著者:米澤穂信

2025年読書1冊目は大好きな米澤穂信さんの作品で。

図書委員として知り合った高校生ふたりー堀川次郎と松倉詩門が謎解きを通して仲を深めていく連絡短編集。
憧れの先輩に頼まれた金庫の暗証番号探しや、後輩の兄にかけられた盗難容疑を晴らすためのアリバイ探しなど、学生らしい周囲の関係者から舞い込むのはとても学生の身には起こらないような出来事ですが、高校生らしからぬ知識や洞察力でそれを突破していくふたりの物語。

高校生がそんなに大人な会話をするかな?と思ってしまう小粋すぎる軽快なトークもありますが、米澤作品の読者としてはそこにも過去の主人公たちが思い起こされてほほえましくもありました。
それとも高校生ってこれくらい大人でしたかね・・私が当時を覚えてないくらいに年齢を重ねてしまったのかもしれません。

謎解きといえば解決したらすっきり!というイメージですし、特に高校生が主人公だったら余計に青春の1ページって感じにさわやかになりそうなものです。でも本作の謎はどれも背景に人それぞれの事情や思惑があり、解くことで人の庭に土足で踏み込んでしまったような後ろめたさがあるのが特徴的に感じました。主人公たちは大人のふるまいをみせるので踏み込む一歩手前でやめることもありますが、それはそれでその後どうなったんだろう・・と思わされるというか、ぼんやり霧が立ち込めたまま取り残されたような感情になりました。そして各事件で主人公が対面したりあえて回避したり、松倉に静止してもらって直面を避けたりしてきた人それぞれの”背景”が、最後に松倉の事情にもひとつずつ通じていくところは答え合わせのようです。

学費が払えないかもしれないのは先輩の事情、身内に犯罪の容疑がかかるのは後輩の事情、と人それぞれいろいろあるなあなんて思っていたところにそれが松倉にも通づるとわかったときの驚き。ああ本当に人それぞれいろいろな見えない何かがあるんだなと思いますし、主人公と同じく私も今はそういう事情には縁がありませんが、ここまで別の出来事として見てきたひとつずつの事件がここにつながった流れをふまえると、今はまだそうであるけれど「明日からどうなるかはわからない」から「関係はある」という主人公の発言にもすごくうなづかされました。

松倉にまだただの図書委員でいてほしいと願う堀川の気持ちもわかるし、(本心かそうでないかはもはや本人にもわかっていなさそうなのでいったんおいておくとして、)お守りとしてお金をもっておきたいという松倉の気持ちも、しかも松倉は”今”困っている”高校生”なんだというのも含めてわかってあげたいような気持ちもあり。難しいラストだなあと思いました。
これは続編があるのも知っているので早速買いに行きたいと思います。

ちなみにこの最後の「友よ知るなかれ」だけ書き下ろしだそうですがこれがなかったら私は松倉の隠していたことには全然気づかなかっただろうなと思います。鍵を使っていざ宝と対面するところまで描かないのは斬新だなあ、とかいう感想をあげていたでしょう。米澤作品には逆立ちしても登場させられないくらい、察しが悪いんですよね。笑


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