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気軽に話せる「居場所」が、がんとともに生きる人の心をラクにする

「がん罹患者に必要なのは、気兼ねなく話ができる居場所です」。そうはっきりと話すのは2015年に前立腺がんを告知された齋藤浩哉さんです。齋藤さんは同じがんを持った人と話し合う場を求めて、ついに「前立腺がん患者会PSA北海道」を立ち上げるまでに至った人。今ではその活動は全国にまで広がっています。その原動力は。そして“居場所”を見つけるには。齋藤さんの言葉には、今より少しラクになるヒントがありました。


同じがんを持つ人と話すだけで心が安らいだ

前立腺がんは高齢者に多く、とくに60代後半から罹患率が上昇すると言われているがんです。しかし齋藤さんが告知されたのは52歳。症状は何もなく、人間ドッグと一緒に「とりあえず」という気持ちで受けた前立腺がん検診をきっかけに、前立腺がんが見つかりました。全摘手術、放射線治療、ホルモン治療と進み、現在も前立腺がん腫瘍マーカー(PSA)の推移を見ながら治療を続けられています。

そんな齋藤さんが「同じがんを持つ人と話したい」と強く感じるようになったのは、全摘手術を終えて退院した直後だったと振り返ります。
「入院中は24時間、看護師さんが寄り添ってくれていますが、退院した途端、その“見守り”が無くなるわけです。でも傷口は痛いし、下腹部もずっと気持ちが悪い。この状態で大丈夫なのかと不安になるのですが、自宅ですから当然、“ちょっとすみません”と助けを求められる人はいません。誰かに話を聞いて欲しいと毎晩のように考えていました」

こうして2ヵ月後に迎えた検診の日。ここでなら不安をすべて吐き出せると思いきや、そううまくはいかなかったそう。「医師や看護師の忙しそうな姿を見ると、遠慮してしまって長々とは話せなくて」。PSAの数値が低下しなかったこともあり、齋藤さんのなかで不安と「前立腺がんを持つ人と話したい」という思いがどんどん積み重なっていきました。前立腺がんの患者会を探すものの、見つかったのは遠く離れた神戸のみ。北海道の深川市で暮らす齋藤さんにとって、同じ前立腺がんを持つ人との出会いは簡単ではありませんでした。

機会が訪れたのは、告知から2年半が経った2018年のこと。国立がん研究センターが主催する「患者市民パネル」に参加したときでした。配布されたプロフィールから、参加者のなかに前立腺がんの罹患者がいることを知った齋藤さんは、テーブルを回って探し出し、ようやく出会うことができたと言います。
「症状も、副作用も、すぐ理解してくれるんですよ。不安をすべて汲み取っていただけたおかげで精神的に落ち着き、心が安らぎました。悩んでいるのは自分1人ではないと分かっただけでこれだけ気持ちがラクになるのかと驚いたほどです。この日の出会いが患者会を作ろうと思った原点です」

北海道初の前立腺がんの患者会を発足

患者会の設立に向けて動き始めた齋藤さんは、「まずは一歩を踏み出そう」と行動を開始します。

東京都で開催されたがん関係のセミナーや患者会に頻繁に参加したほか、旭川市内のがん相談センターに患者会設立支援の依頼もしたといいます。動き回るなかで繋がった縁がきっかけで道内民放テレビに患者として出演し、「前立腺がんの患者会を作りたいと思っています」と話したことも。この期間にさまざまな経験と仲間を得た齋藤さんは、設立を心に決めてから約1年半後に、北海道初の前立腺がんに特化した患者会「前立腺がん患者会 PSA北海道」を立ち上げました。設立から2ヵ月後に開催した初の患者サロンには、患者19名、家族6名が集まったといいます。

「患者サロンを新聞社が取材に来てくれました。記事を読むと参加者の声として、“初めて同じがんを持つ人と会話ができて本当に良かった”、“こういう場を作ってもらって感謝します”という言葉があり、設立して良かったと心から思いました」

設立の翌年、新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、直接集う活動は休止せざるを得なくなったものの、齋藤さんは「立ち止まってばかりいても仕方ないですから。平均年齢70歳の患者会ですが、みんなで一歩を踏み出し、オンライン交流会に挑戦したんです」と笑って話します。全国どこからでもアクセスできるようになったことで、今では北海道はもちろん、東京、新潟、徳島、島根、沖縄と全国から参加者が集まっているそうです。

「前立腺がんは男性特有のがんのため、参加者の多くが男性。女性特有のがんである乳がんは患者会も多く盛り上がっていますが、一方で前立腺がんの患者会は少ないんです。男性は会社から一歩出たところで集団を作るのがあまりうまくないのかもしれませんね。しかし前立腺がんは泌尿器ですから、女性の前では話しづらい悩みも抱えています。男性ばかりの集いだからこそ話せることも多く、そういった意味でも参加者の方々から感謝されています」

「前立腺がん患者会 PSA北海道」を立ち上げたことで参加者から感謝される場面が増えた齋藤さんですが、齋藤さん自身も参加者に感謝していると言います。
「前立腺がんは基本的には高齢者がんで、患者会では私が最年少。年上の方から治療に関することだけではなく、いろいろな人生経験も学ばせていただき、感謝しています。また全国から参加してもらっているので、各地域の話が聞けるのも楽しい。私があまりにイキイキしているからか、娘からは“老後の楽しみができてよかったね”なんて言われました(笑)」

がんを抱える人の憩いの場であり続けたい

齋藤さんは、自身の経験のなかでも十分に理解していたものの、周りのがん罹患者の話を聞くなかでより一層、病気について気軽に話せ、気持ちを落ち着かせられる場の重要性を痛感したと話します。

「緩和ケアというと、終末医療の“痛みを取る”といったイメージがありますが、私はそうではないと思っています。告知を受けた時点から、寄り添うことのすべてが緩和ケアなんです。そういう意味では患者会やセミナー、そして、担当ナースとの対話サービス『Tomopiia』も緩和ケアのひとつではないでしょうか。ただ患者会には、高度治療について話し合うことを基本とした患者会から、雑談中心のものまでいろいろあるので、自分に合った居場所を見つけることが大切。うちはというと、ただただ想いを語り合い情報を共有する患者会です。同じように悩んでいる人が他にもいるのだとわかっただけで安心してもらえると思うので、それで十分かなと。笑いが起きることも多く、だいたい“参加してよかった”、“楽しかったね”で終わります。でもそれでいいんですよ。がんを経験した人はみんな一度、死を意識していますから。だったら1日、1日、楽しく、有意義に過ごした方がいいでしょう。がんになったことは、けっして幸せではありませんが、出会うはずがなかった方々と出会い、多くの学びの機会を与えてくれました。がんを抱えていても楽しい場所があるってことも伝えていきたいですね」

齋藤さんの言葉は明るく、ユーモアもいっぱい。患者会での対話を通じて元気づけられる人が多いのも納得です。インタビューにもあったように、患者会と一言でいっても扱うテーマも、雰囲気もさまざまですが、齋藤さんは「求める側が自分に合う居場所を、自由に、好きに、選べばいい」と話します。そこでがん罹患者一人ひとりが、自分に合った居場所をスムーズに見つけられるよう、Tomopiiaはこの度、がん患者会の情報ページを立ち上げました(患者会リストはこちら)。セミナーの開催地域やオンライン参加の可否など、患者会を探す際のご参考にしてください。またTomopiiaでは、がんと共に生きる方の「不安」や「孤独」の解消を、担当ナースとの対話を通して個別にサポートしています。ご自身に合う形で、思いや気持ちが伝えられる場所を見つけてみてください。


2015年、悪性度が高い前立腺がんの告知を受け、根治的治療として全摘手術と放射線治療を行う。その後、がんの姿は特定できないが腫瘍マーカーであるPSAが上昇するPSA再発という診断を受け、現在もホルモン治療中。2019年に前立腺がんの患者・家族が集い、想いを語り合う場所の必要性を感じ、2019年に北海道初となる「前立腺がん患者会 PSA北海道 」を立ち上げる。

今後の開催イベントの情報

『前立腺がんオンライン交流会』
開催日:2022年12月24日㈯、2023年2月25日㈯ 午後7時から9時
開催方法:オンライン(Zoom)
定員20名(事前申込制)、参加費無料
お申込みはPSA北海道までメール
申込期限:開催週の月曜日まで
※ 詳しくはPSA北海道ホームページ

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