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第11章「学校生活」

その日の帰り、スカイダイビングのお礼参りに神社に寄った。
駐輪場に自転車を止め、鳥居の前でお辞儀をして手を洗いお参りをする。階段を上がり、両脇の狛犬に会釈をした。お賽銭を入れて、鈴を鳴らす。
「無事に一人でスカイダイビングが成功できました。重力波にのまれましたが、無事に帰って来ることができました。ありがとうございます」とお礼を伝えた。

 アスカは、ふと、この神社に祀られている生命を司る石が気になり、宮司さんを訪ねた。
「こんにちは」とアスカが尋ねると、「こんにちはアスカさん、無事に終えたんですね」と宮司はお辞儀をした。

「まあまあお入りになってください」と宮司さんは、部屋に案内して座布団を引いた。
「私にあの岩を見せて欲しいの」とアスカは伝えた。
「何かあったんですか」と宮司が訪ねるとアスカは体験したことを始めから伝えた。

宮司さんは聞き終えると、
「人間とは、不思議な生き物です、死を間近にし、意識が薄れていく時に身体と魂が分離し、臨死体験のような経験をされる方もいらっしゃいます。それによると、とても幸せな感じになったり、とても綺麗な花畑や川が見られる方もいらっしゃいます。それは、人間が進化の過程で閉じ込めていた私達ふるさとの記憶なのかもしれません。その体験は、きっとこの先の人生においてあなたの支えになっていくと思います」と言って宮司さんは立ち上がり奥から両手で長三宝に乗せた岩を運び出して来た。

「これは、借りれますか?」とアスカは駄目もとで聞いて見た。
「言い伝えでは、借りた者は自ずとここに戻してくるとされています。借りたものは、叩いても、削ってもびくともせず、諦め、この岩をどうすることもできないそです」と宮司さんはアスカに伝えた。アスカは長三宝の上に乗っている岩を両手で受け取り大事にそれをバックに入れた。

 次の日、アスカは、理科の先生を訪ねた。
「昨日は、授業中に寝てしまい本当にすいませんでした。先生、だいぶん前の授業で生命が誕生した場所が深海の噴出孔と考えられるとおっしゃっていましたよね」とアスカは聞いた。
「それはそうだ、よく勉強してるじゃないか。それがどうしたんだい?」と先生。
「実は、自宅で同じ環境を作ることは可能なのか」と思いましてとアスカ。

「それは、まだ自宅では、難しい。有機物が安定に存在するのが難しい四百度近い熱水が噴出孔を通り冷やされる。んー。アスカ君が勉強したいと思った時が、吉日だ。知り合いの大学の研究室に再現出来る場所があるから、聞いて見よう」と言って、先生は、そのまま、大学に電話して今日アスカという女の子が夕方そちらにいくのでよろしくと言って、電話を切った。大学は、自転車で行ける距離だと説明を受け、帰りに岩の入ったバックを持ってアスカは、大学に向かった。

 大学に着くと研究室を通り過ぎ、外に案内された。「ここの水槽が余っているけど、旧型で、再来年度には処分してもらう予定だけど、教授がなんでも良いから使って欲しいと頼まれて、でも、僕達は他の研究で忙しいから、使ってくれる人を探してたんだよ」と言って、ブルーシートを剥ぎ取り、使い方を教えてもらい。水をため、岩を入れスイッチを押した。
 研究員の人は、何も聞かずすぐに自分の研究室に戻って行った。

 毎日通ったけど変化はなく、やがて、ペテルギウスの超新星爆発の影響で光輝いていた夜空が収まり、オリオン座からペテルギウスがなくなる頃には、アスカも高校三年生となり、岩の存在もいつしか、忘れていった。

 やがて、受験勉強も忙しくなった。
「最後の九月までに間に合うの?」とユイがアスカに聞いた。
「まだかかりそうだけど、どうしても完成させたいの」と伝えると、離れたところから、「超大作だもんなあの絵、俺は好きだよ。完成形がどうしても見てみたい」とヨシキは言ってきた。
「あんたに聞いてないよ」とユイは怒った。
「でも、アスカが体験した絵だもんね。私も気になる」とユイが言うと、
「そんなに気にしないで、私も記憶が鮮明な内に描き入れて行きたいの一つづつキャンパスに表現する楽しさが受験勉強の日々から解放される唯一の瞬間なの」とアスカは話した。

 そして、春が過ぎ、夏になり、推薦を志望していた同級生達が、秋に合格が出だした頃、相変わらず、アスカは、絵を描きながら受験勉強をしていた。絵を描いていると、ヨシキが、
「もう少しだね」と後ろから話しかけてきた。
「私が、体験した世界は、こんな感じだった」とアスカは絵を描きながら伝えた。

 ドアがガラガラと開き、
「あんた、またアスカの邪魔してる!」とユイが入って来た。ユイもアスカの絵を見て、
「これがアスカの体験した世界? すごくない?」とユイは息を飲んだ。
「あとは、ここに名前を書いて終わりだよ」とアスカはサインをして筆を置いた。
「完成?」とヨシキとユイは同時にアスカに聞いた。
「うん」と言って、アスカは、筆を置いた。

「アスカ、完成した絵を先生に見てもらおうよ!」とユイはアスカに促した。
「そうだね」とアスカが返事をすると、ユイは、ヨシキに先生呼んで来てとサインを送った。
「なんで、俺が、分かったよ」と言って渋々走って先生を呼びに行った。

 ヨシキが先生と一緒に現れて、先生は、
「完成したのね。アスカさん、もう年明けになるかと思ったわ」とアスカの絵に近づきそれを見た。
「アスカさん、この絵は、どこで着想を得たの? コンクールに出す気はない?」

「これはね、先生!」とユイが喋り出すとヨシキはユイの足を踏んづけた。
「私の夢の中で見た風景です。とても不思議な気持ちで今もまだ消えずに心の中に残っています。みんなにもそういう体験があると思うので、この絵から何かを感じとってくれたら嬉しいです」とアスカは答えた。

「じゃコンクールの締め切り、今日だから私から出しておくね。題名は何にする?」と先生。
「やっぱり、あれかな」とヨシキが声に出すと、ユイはヨシキの靴を踏ん付けた。
「『不思議な現実』でお願いします」とアスカは力強く伝え頭を下げた。
「了解。じゃ応募しておくね」と先生はその場を後にした。

 先生が立ち去ると、
「痛いわね」とユイがヨシキに言っていた。
「それは、こっちのセリフだよ」とヨシキはユイに伝える。
「あんた、何を言おうとしたの。もしかして異世界探求とかじゃないでしょうね」とユイ。
「なんで分かったんだよ、ユイも先生に話そうとしただろう。俺たちしか知らないんだぜこの話」と負けじとヨシキは話した。

「まあまあ、完成したんだから、これで二人とも落ち着いて受験勉強できるね」とアスカ。
「そうだよ、こっちは絵が気になって受験勉強できなかったんだから」と二人同時に言ってきた。
「勉強できてないのを私のせいにしないで」と笑いながらアスカは答えた。

 それから三人は全国一律テストに向けて勉強に励んだ。
 やがて、三人は猛勉強の末、希望の大学に合格し卒業式を迎えた。

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