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陰性なるがゆえの世界観

心待ちにしていた本は、すでに一ヶ月前に資料室に届いていたが、緊急事態宣言による外出自粛で取りに行けず、やっと一週間前に手に取ることができて、遂に昨日読み終えた。

ライフワークである「桜沢如一」の新刊書籍がでる時は、いつでもワクワクする。

著者である斉藤武次さんとの出会いは、多分2011年の資料室の整理活動を始めた頃だと思う。伝説に聞くMI生とは、菊池富美雄先生や松岡四郎先生のような激烈陽性人のイメージが強かったが、斉藤さんは穏やかで陰性な文学肌の紳士だった。

今回発刊された『マクロビオティックの世界観(第1・2巻)』もまさに斉藤さんのその陰性さが存分に発揮され、過去の桜沢本とは一線を画す、歴史的資料性の高いドキュメンタリーとしての桜沢像を描きだしている。

というのは過去の桜沢本は、それぞれの著者の桜沢に対する熱い想いが強く反映されて、客観的に桜沢の人物像を読み取りにくい作品が多いのだ。

斉藤さんにももちろん桜沢への熱い思いはある。しかし、その想いを全面に出さず、冷静に淡々と歴史的資料を積み上げて実像に近い桜沢像を炙り出している。

そして今回の本の画期的なことは、今までマクロビオティックの歴史になかなか記述されることが少なかった桜沢先生を支えた人たちに光を当てていることだ。

西端学、後藤勝次郎などの先輩から反戦運動の最中出会った政治家たち、そしてMI生の個性豊かなメンバーたち。独立独歩、我が道を行くイメージの強い桜沢が、実際には多くの人たちの助けの中で活動を活発化して行く全体像が描かれていることも斉藤さんの陰性な視点ならではではないだろうか。

それにしてもスゴイ資料参照量である。桜沢著作物はもとより、「食養」「コンパ」「サーナ」「世界政府」などの雑誌・新聞群から、当時の戦況を示す一般資料まで、途方もない。

しかも斉藤さんの、その時代をリアルタイムで見てきた実体験が加わる。

おそらく桜沢の思想や情熱を個人的な想いで伝えるお弟子さんはたくさんいれど、これほど社会的価値の高い桜沢の客観的実像を後世に残せたのは、おそらく斉藤さんだけではないだろうか。

ともあれ驚くべきは、日本ではほとんど知られていない人物に、これほどまでの歴史的資料が残っているということだ。

そして、この本で斉藤さんがナビゲートする資料のほとんどは、今や桜沢如一資料室でしか参照できない。

う~ん資料室の役割はとてつもなく大きいと、あらためて心引き締まる思いがした。

斉藤武次さん、今回は素晴らしい本を完成していただきありがとうございました!

そして第3巻も激烈に楽しみにしておりま~す。

マクロビオティックの世界観 巻1
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784908115219

マクロビオティックの世界観 巻2
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784908115226

斎藤武次(著/文)
発行:あうん社

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