全てはフューシャピンク


 雛菜ちゃんがお店を辞めてから、一か月経った。
悲しいけど、こうなる予感もしてた。
「哀しい予感」だ。あの店長がメンタルを追い込んだのだ。

雨の日の朝は最っ悪。
彼氏がクソオブクソな辺鄙なとこに部屋を借りたせいで、雨でも駅までチャリで行かないといけない。
ゆずはは神奈川に住んでる。
秋葉原まで一時間弱くらいだ。

レインコートにレインブーツで駅までいく。チャリに乗って。
歩きだと35分はかかるし、車を持てるレベルの稼ぎは無いし、維持費がかかるのを考えると微妙だ。
「あー!もう腹立つ」
家ではヘアメはやらない。
お店でやる。メイクも、どうせ崩れるから下地とファンデとチークだけにして、細かいところはお店でやる。

電車に揺られて、やっと秋葉原についた。
ホントは東京に住みたいな。
でも家賃高いからなぁ。
秋葉原はオタクの人、バンギャ寄りのコンカフェ嬢、コンカフェ寄りのガールズバー、あとなんのカテゴライズかわかんない人でごった返してる。

店に着いた。
店前で、同じメイドの彩ちゃんが立ちつくしていた。
ドアは閉まっている。
「おはよ。どしたの?」
「鍵が空いてない。妖精さんも来てない」
「まじ?」
イヤな予感。妖精さんというのは、メイドカフェの中で裏方の仕事をしてくれるスタッフさんだ。
そのまま、30分近く待った。
オープンは2時からだ。
早くしないと、色々な準備があるのに。
第一、メイクも終わってない。
こんなカラコンだけのすっぴん目で接客なんか出来っこない!

結局、誰も来なかった。
2時3分。
ドアをガチャガチャやってみたけど当然開かないし、店長、オーナー、妖精さんにLINEしても電話しても繋がらない。

彩ちゃんと諦めて帰った。

もしかして?というか、多分…逃げたな。
夜逃げ。
給料未払いで店が潰れる、なんてのはコンカフェでちょこちょこ聞く。
だからこそ安全そうなお店で働くか、大手で働くかしか無い。

もう嫌。
ダルい!
働きたくないよ。
なにもしたくないよ!
石油王と結婚したいよー。


お店経由で作ったTwitterは放置している。
触っていいものか、ツイートして良いものか悩む。
ホントは、来てくれるお客さんに伝えたい。
会えなくてごめんね。
何も連絡出来なくてごめんね………。

部屋でひたすらアニメを観る。
彼氏が帰ってきたら、簡単なご飯を作って食べる。
こう見えてもわりと料理とかするんだ。今日はほうれん草とベーコンの和風パスタ。
またアニメを観る。

二次元の女の子はいいなぁ。
巨乳もシンデレラバストも大好き、おねえさんもロリも大好き。ひらひらの可愛いミニスカート、セクシーで不思議なデザインのドレス。
それに、ずっとキレイで可愛いままだ。
歳を取りたくない!
セリちゃんが「25歳過ぎるとお金かかるよー?ヒアルに、プチ整形、それからそれから」って話始めるから、イヤー!やめて!って騒いだ事がある。
今のままで時が止まれば良いのに。
一歳でも歳を取りたくない。

まあ、騒いでも仕方ない。
悩んでても仕方ない。
翌週セリちゃんとお試しエステに行った。
3千円もしなくて、ツルツルプルプルになって凄く嬉しかった。
勧誘とかもほとんどない。
結構いいかも。

エステのあと、セリちゃんとお茶した。
「セリちゃんはこれからどうするの?」
セリちゃんはチーズケーキを食べるか真剣に真剣に悩んでいた。
結局、頼んでゆずはと半分こすることにする。
「さあ?」
「さあ?って。メアリーメイか、るりしゅーず受けようかなぁ」
「どっちも大手じゃん、厳しいらしいよ」
「そうだけど」
どっちもまあまあ合格率は低い。
ルックスにはまあまあ自信がある。
でも、どっちもアイドル、地下アイドル、モデルさんとかが在籍してるしそういう意味では結構厳しいかも…。
たくさんの女の子に埋もれるのはイヤだ。
誰にも注目されず、チェキリクもなんも入らず終わるのはイヤ!

「私ももうすぐサンニーじゃない?だから、とにかく最後に一花咲かせたい」
セリちゃんは顔の横でピースとサンを指で作った。32歳。
「セリちゃん…」
そうだよね、とケーキを咀嚼して飲み込む。

ゆずはが32だったら、セリちゃんみたいに勇気を持って「私は私だと」前向きに働けるだろーか?
ううん、きっとムリ。
ゆずはは、自分を誰よりも可愛いって思ってるけど、誰よりも臆病だから……。


近くにいる仲間に勇気とモチベーションを貰える。
ゆずはって幸せかもしれないな………。

そんな事を思った午後だった。


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