みすゞ・モンゴメリ・マクルーハン
M・マクルーハン(1911〜1980年)は、テクノロジーやメディアが人間の身体を拡張すると言った。外出や対面の難しい今こそ、メディア詠を意識してみたい。
「NHK短歌」テキスト一月号より。
みすゞ読む吾に背預けソシャゲをす甘い時間の砂ごと溶けて
東京都 中島 早希子
金子みすずの詩集を読む文学的志向の〈吾〉と、スマホでソーシャルゲームに興じるイマドキなもう一人。〈吾〉の背中にもたれかかるから、小学生だろうか。別々のメディアで異なることをしつつ何となく甘えてくれる時期も、砂時計の砂のように有限だという予感がある。
一首一首が雨だれのように落ちてくる歌集逆さに開いてみれば
宮崎県 山路 由美
もちろん虚構の歌だ。しかし、一首単位の言葉を〈雨だれ〉に喩えて、歌人の(あるいは多くの歌人たちの)想いの強さを可視化してみせた。
ギルバートとアンのキスその一文を比べK社のシリーズを買う
神奈川県 北入 はるか
海外小説の好きな人は、その翻訳にも拘ると聞く。『赤毛のアン』シリーズは意外に長い。キスシーンの翻訳で比較検討するとは、ファンの発想に脱帽である。
古書店へ手づくりのzine納品しチェコの絵本を買う秋の暮
静岡県 尾内 甲太郎
zineとは個人が発行する小規模の印刷物のことで、無料や安価で配布される。zineを作るほど表現の好きな人は、書物も好きなのだろう。チェコの絵本もzineも扱う粋な古本屋を、ちょっと覗いてみたい。
「短歌」一月号より。
駅留めの鉄道チッキで届きしはきっちりキの字の父の荷結び
神奈川県 下山 順子
〈チッキ〉とは小荷物輸送のこと。鉄道チッキはかつて個人間の荷物の授受に利用されていた。荷物ではなく〈荷結び〉が届いたと表現したのがユニークだ。Kiの音の多用が父の生真面目さを示す。鉄道チッキは一九八七年の国鉄民営化でほとんど消滅したが、最近は復活の動きもあるという。
今回はいわゆる読者歌壇の、選者コメントのない佳作に注目してみた。読んでいると選者と自分の好みの違いが明確になり、新しい発見がある。
専門歌人からもメディア詠を一首。「歌壇」一月号より。
「ドクターX」見て笑ひをり老医師の夫は入院患者となりて
小島 ゆかり
職業ドラマは、本職の人々からは厳しく批判されると聞く。患者となったベテラン医師は、ベッドの上でこの人気医療ドラマを見て、どう笑ったのだろう。
※ 短歌結社誌『水甕』2022年3月号の「歌壇作品時評」を改題・改稿したものです。
※タイトル画像は、まるいみさきさん https://note.com/ma_ruku の作品。