島と、花と、日々と。きっとこれからの私を、彩るもの。
新しい部屋に足を一歩踏み入れたとき、「あぁ、風が通り抜ける美しい場所だな」と思った。
高台の、ビンテージマンションの最上階。二面採光どころではない、三面、ほぼ四面、みたいな明るさで、部屋にいながらにして朝陽と夕陽、さらには海と、誰もが知っているであろう歴史的建造物が見えた。
「窓を開けると、風が気持ちよく吹きます」。この部屋を知るひとは、私にそう言伝をした。着いたら、まず窓を開けよう。
そう考えていたから、まずは、ギギギ、と音を立てながら重い古い窓を開ける。
ふわっ
と。海から、いえ、もしかしたらもっと遠くの島だったり、国だったりするところから、吹き続ける風が、いまここにいる私の頬をなでる。
時刻は、ちょうど夕陽が暮れるころのことだった。海に、日が沈んでゆくのが、部屋から、見られる。海が、風が、太陽が、空と、雲が。
私が暮らしにいま、求めていたいことのすべてが、まるで全部。ぜんぶ、詰まってくれているような部屋だった。
テンポラリー。一時的な住まい、ではある。仮暮らし。この島で暮らすための、足元を整えるための場所。けれど、しばらくの私の、家。
荷物から本を取り出し、外国で買った大切なかごバックを飾って、割れてほしくない食器や、日々からだに取り入れていたいお茶などを並べてゆく。お湯を沸かす間に、カメラやレンズの手入れをして。
そして、部屋の中に、まずは花を飾らなければ、と考える。
部屋に家具や家電、生きるために必要なものはそろっているように見えるけれど、私がわたしでいるために大事なことは、まだ、ないはずで。
まずは、花瓶を買いに行こう、と思い立つ。
体を満たすためには食べるものが大切だけれど、同じくらい、私にとっては、心を満たす花の潤いも。
こんなに日々に、「花が足りない」と思うなんて。島と、花と、日々と。きっとこれからの私を、彩るもの。