母、家の中で、転がって・・アルプスの少女のクララから、懐かしのAさんへと、そして決意のうな丼。 3
母、おばばさんの、傷は私からみたら、見慣れたものだった。
転んで、顔面打ちに、上唇を切って、流血。今時は、たとえ軽くても、二針縫った方が、痕が残らない。血は、真っ青になるぐらいダラダラ出たと思う。
他人に話すと、「えっ!!!」だが、出る時は出る。
私が、ある病院に必ず入院するときは、処置室で、横になり点滴をうける。
隣のベッドを間仕切りカーテン越しにみた、女性の顔面は、青タンと、切り傷、擦り傷の大きなカサブタだらけ。相当、殴られたか、暴れてタンスの角に顔とか頭をぶつけた女性も点滴を受けていた。
そんな話をすると、母、おばばさん、「Aさんが懐かしいわ、・・世話焼きでええ人やったのに・・」とボソッ。
Aさんという女性は、当時、60ちょい前。私が入院したとき、新参者にも、親切にしてくれて、彼女は、刑期(入院生活)を終え、退院を間近にして、ルンルンしていた。「もう、この服いらないから、あなたにあげる!」と、白の襟付き半袖シャツ、私にはダバダバのズボンをくれた。
入院中にも、家族と共に病院から、あるところで、先輩から痛い話を聞きに、どこかしらの施設に通う時も、バス路線とか、○○行きの、○○で下車してとか、一緒についてきてもらった。私はボォーとしていたが、母には、かなりの好印象であった。
そのAさんも、最後は、旦那様から殴られたり、本人が暴れたりあがいたりして、タンスの角に顔をぶつけ、口のあたりの大きな瘡蓋やら、顔面にできた青タンは、凄まじかった。決して、旦那様が悪いわけではない。本人の問題行動なのだ。
Aさんは、還暦すぎた頃にお亡くなり。不自然な死に方に色々噂が飛び交ったが・・。
そうそう、思い出した、旦那様と娘さんで美容院をなさっていた。入院中、髪は伸びるし、思い当たる美容院も知らなかったから、Aさんが、その美容院まで案内してくれて、ヘアーカットを旦那さん、娘さんにしてもらった。母には、その思い出がこびりついている。
顔の傷は、天からのAさんの最後の姿がびビーンと、フラッシュしてきたのか、その前にAさんの死際を私がオババさんに話しているかもしれない。
まあ、そんなこんなで、おばばさん、医者の力説から、すんなりと、
「リハビリ行く!」
「ディサービスも行く!」
と、肚を括った。
イノキ姉は、「一辺には無理だから、まずはリハビリからクリアしようね」
「慣れてきたら、次は、ディサービスを週1」
「更には、ディサービスを週2、3と。入浴介助もしてもらえるしね」
山登りニストの姉ながらの、一歩一歩着実にと。
家具屋さんに、必要そうな介助用品のレンタルの相談、交渉は、姉がやっている。
転倒流血の前に姉がケアマネと相談してレンタルしてもらった、補助歩行器。母は、「こんなもん、邪魔臭いで返せ!」と言っていた。ところがである。転倒してから、「邪魔者扱いされていた」補助歩行器が、母の腰の位置まで高さ調整され、御座敷に進出していた。母も、これは必要と自覚した。
母、おばばさん、仏壇のお供えの上げ膳仕事は、一切やらなくなった。私たち、気がついたものがやるようにした。オババさんはシンクの上の御膳に水、お茶、ご飯のこもりをセットしておくだけ。洗濯機は自力で回すけど、外の縁にドンと洗濯カゴがおいてあるので、「干してくれ」という合図。
そうそう、庭仕事、竹藪仕事も、何にも言わなくなった。
あの口癖、「仕事なら、山のようにあるぞ・・」もあの日から、一切言わなくなった。それは、もう自分が外を前のように杖を付きながら、あちこちと歩けないという事実を受け止めたからだ。
その分、私自身、もう自由にしていいんだ。好きなように剪定していいんだ。
好きなようにと言っても、植物、木々には性格がある、性格を熟知し、怒らせないように扱う。庭の管理の責任と言うものを本当に任されたのだろうか。
まずは自分のペースで、行うように変えていこうと思った。
おばばさんは、何も言わなくなった。わからないことがあれば聞けば、答えてくれる。
今年は、クリスマスローズの苗が出ていたので、4色買って、実家の花壇に畝を作り、クリスマスローズを植えた。落ち葉のマルチで。
昨日、おばばさん、自分自身に踏ん切りをつけるためか、「ウナギが食べたい!」と言い出し。私の分も姉イノキが気を使って、頼んであげるけどと、聞いてきたが、私は、入りませんと。なぜならば、店屋物のカツ丼、うな丼は食べたときは、美味しい美味しいと言って食べるが、その翌日の夜明けに苦しみだし、トイレで卒倒するのがオチ。そう言う体質らしい。なんでも、少し、食べる分にはいいけど、一人前は、無理。
昨夜のハロウィンは、実家、姉の家ではうな丼で、まったり過ごしたことであろう。うな丼は、「これから面倒かけるけど、よろしゅう!」ってこと?
本日は、おばばさんのリハビリデビュー。イノキ姉が付き添い。ご苦労様。
いい夫婦の日には、「結婚記念日」として、ワインを送ることにした。もう辛口がいいとか、シュワシュワするのがいいと、好みを聞いてある。もちろん、予算も。
本当は、旅行でもプレゼントしたいが、できない現実。
イノキ姉は、前向き。「巨人の星」の星一徹のような、できることは、やらせる。できないことは、フォローする。入浴介助もイノキがやっている。
やってはいけないことは、声を上げて叱り飛ばしている。
そしてイノキ姉のいいところは、それでも山に行くという姿だ。
姉、立派。モットーは、「明るい介護」なんてありうるかしら?実践していくような。