「あきちゃんからの電話」(フィクション)
短大時代の、同級生でもあり、ワンゲル同好会のお仲間である、あきちゃんから、突然の電話。
正直、好きでも、なんでもなかった。ただ、一緒にゼミとか、ワンゲルとか、スキーとかで、一緒だった。
自分とは、別人種。前向きさんで。
篠ノ井線の電車が姥捨山付近で、脱線事故。その日は、ワンゲル部で、上高地へ行こうと計画していた。で、それは中止になった。
ところが、ここぞとばかりに、私は、隙を狙って、上高地入りを果たす。単独である。昔から、一人歩きが好きだったせいもある。
色々な人と出会う。と言っても、カメラのシャッターを押して欲しいとかで、一人の女性とのやりとり。おまけに、自分の写真も撮ってくれた。
別れ際に、名刺を渡される。東京の大学の事務局〇〇さん。自分の住所も教える。
のちに、簡単なお手紙と、写真が届く。
一人だから、そういうこともできる楽しみをひしひしと感じる。
みんなで揃って、わあいわあいいいながら、散策するのが苦手なのである。
要は、マイペースでないとダメ。
あきちゃんに、言わなければよかったが、ポツンと、「私、上高地行った・・」
あきちゃんは、「私も誘ってくれればよかったのに・・」
いやいや、あきちゃんを誘ったら、賑やかになるし、静けさが味わえない。
スキー合宿の時は、私が、迷子になり、警察に届けを出す寸前のところで、小屋にたどり着く、その時、あきちゃんは、私を抱きしめて、泣いて、「よかった、よかった・・」と。私は、固まっていた。
恐怖で、カチカチだった。
上面だけしか知らない友人の結婚式にでた。25歳の時。場所は、松本の高砂殿。
今は、どうか知らないが、高砂殿と言えば、お決まりのパターンの結婚式。
あきちゃんは、未婚だけど、もう彼氏同伴で、お腹に子供がいるとか。
とにかく、勢いの良い女性だった。
その結婚式の時、お母さまへのお手紙を読まされた。なぜだか、ずっと涙が止まらなくなって、泣いていた。贈り物は、母の勤めていた会社の陶器セットバーンと、社員割引で、買ったものだから、1本出せば、すんだ。お祝儀も、ちゃんと持って行った。岡山からの友人も名前忘れたけど、もう結婚が決まっているとか。
私が結婚して、ボロ公団に住みはじめた頃、急にあきちゃんから、電話が。
内容は、アムウェイのお誘いだった。
私も、転職を繰り返して、地方のホール関係の仕事をしていた。上司から、いつもことごとく、「アムウェイ、日教組関係(右翼団体との因果から)には、ホールを貸してはならない」と、口を酸っぱく言われていた。はっきりと言わずに、「この日は、詰まってます」という、断り方。
そういう経緯もあって、「アムウェイねえ・・・」
職場から、ダメだよと言われているのと、静かに断った。
その後、松本の結婚式のNちゃんから、「あきちゃんが事故を起こして亡くなったの?どうしよう・・なんか送った方がいい?」
私も、よくわからなかったが、Nは、あきちゃんの家に泊まりに行ったりしているから、また特別な思いもあるようだった。
「私、アムウェイのお誘い受けたから、その時断ったの・・だから、もう・・」
その後、Nは、「りんごを一箱送っておいた」と。
あきちゃんからの電話が、あれが最後になるとは、思ってもみなかった。