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異文化間の「解釈のギャップ」で遊ぶ|文脈の中を泳ぐデザイン #4

『文脈の中を泳ぐデザイン』は、私が2018年11月に上海で登壇した内容を文章に起こした全5回のシリーズです。事例を交えて、私がどのように文脈を行き来しながらデザインしているのかについてお伝えします。

今回は、最近仕事をする中でよく感じている「私の中での日本のイメージ」「別の文脈から見た日本のイメージ」とのギャップを利用したデザインの可能性についてお話しします。

0. なぜ文脈を考えることがデザインする上で重要なのか
1. 多文化性を表現するひとつのストーリー
2. 文化特有のアイデアをより多くの人に伝える
3. ふたつの文化をすり合わせた新しい価値
4. 異文化間の「解釈のギャップ」で遊ぶ


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言語のかたちで遊ぶタイポグラフィー

仕事の傍ら、作品制作として、字体を解体したり融合させたりして、実験的なビジュアルを作っています。

例えば、同じ意味の別言語のことば(以下の画像では「ありがと」の日本語とアラビア語)の字体を同じようなルールでデザインし、解体して柄を作ったり・・・

6つの幾何的なパーツからなる、模様に文字にも見えるようなフォントを作ったり、

日英のバイリンガルのメッセージカードを作るなどしています。

最近では、このような活動を見た人から「英語のタイポグラフィーを日本語風に作って欲しい」という依頼を多く受けるようになりました。英語圏の人には、日本語のタイポグラフィーは、文字ではなく面白い形の組み合わせに見え、とてもユニークだといいます。


自分にとって文字に見えてこない形を探す

以下の画像があるプロジェクトで実際にクライアントから送られてきた参考画像の一部です。

しかし、こういった日本語のタイポグラフィーは私には「文字」であり、意味のあるかたちで、英語圏の人が見ている「かたちの面白さ」を感じることができません。

そこで日本語でも英語でもない言語のタイポグラフィーの例を集めて「文字の形としての面白さ」を探り、それを英語の字体に応用するというプロセスを踏んでいます。

そしてその英語の字体が、自分にとって文字に見えてこない形になったあと、「もしこの一部分が日本語の文字だったらどうなるか」などを想像して微調整をし、さらに英語のタイポグラフィーに異言語らしさを足したりています。

以下はそういったプロジェクトのうちのひとつで提供した「PLANET」のタイポグラフィーです。



架空の舞台としての「日本」

次に、異国的表現と自分の価値観の間を行き来したユニークの体験のひとつとして「犬ヶ島」という映画での仕事についてお話ししたいと思います。

Photos: Fox Searchlight Pictures

犬ヶ島はウェス・アンダーソン監督のストップモーション(定格撮影)アニメの映画で、架空の日本を舞台に「犬インフルエンザ」の蔓延で、離島に隔離されてしまった愛犬を探す少年と犬たちが繰り広げる冒険を描いた作品です。

舞台は日本ということで、日本語や日本文化にちなんだものがたくさん登場します。私はグラフィックチームの一人として、看板やパッケージ、特に日本語のタイポグラフィーや手書き文字の部分などをお手伝いしました。

Photos: Fox Searchlight Pictures

舞台美術は1950〜60年代の日本文化をインスピレーションに建築からお菓子の箱など隅々まで、膨大なリサーチの上に考えられており、日本語の配置やレタリングの形まで、綿密な監督の指示があります。


事実への忠実性と説得力ある架空の再現性

しかし面白いのは、架空の「バイリンガルだった過去の日本」という設定なので、ところどころに西洋的なオブジェクトが物語の手がかりとして使われています。実際に日本では使われないけれど、「西洋的には」あった方が意味が通じるとか、ストーリーがわかりやすくなるものが出て来ます。

Photos: Fox Searchlight Pictures

例えばこのドッグタグという存在は西洋ではとても象徴的です。西洋で犬を飼う人にとってドックタグは「愛犬」を連想するオブジェクトで、映画の中では重要なモチーフです。ですが実際日本ではあまり使われておらず、デザインの参考になる昔の写真がありませんでした。

なので、アメリカの60年代のドッグタグの資料を見ながら「もしこれが日本に存在していたら?日本語で書いてあったら?」を想像して作ることになります。こういった文化間の視覚的翻訳の作業は、グラフィック部分だけでなく映画のあらゆるところで行われていました。

映画の忠実さを高めるため、自分の持っている日本的要素や基準を提供する場面と、別の文脈の架空の日本に説得力を持たせるために日本っぽいものを想像する場面の両方を何度も行き来した、本当にユニークで貴重な体験でした。


多様な解釈の交差点となる表現

これは「EXOTICA」というフードデザインのワークショップのポスターなのですが、今でもここに多様な解釈が共存することの面白さが詰まっていると思っています。EXOTICAの文字を別言語の字体を借用して表すことで、見る人それぞれに自分の母国語と異国の言語の間を行き来させることができます。知っているはずのものが「EXOTICA(異国風のもの)」になるようなデザインになったと思います。

こういった文字と図形の認識の境界線で遊んだり、親しみあるものをエキゾチック化する表現は、今後もっと深めていきたい方向性です。特に、多種多様な文化の共存から生まれる新たな文化価値の表現方法のひとつとして、可能性があるのではないかと期待しています。

今回の記事で紹介したそれぞれのプロジェクトの詳細は以下のリンクからご覧になれます。

Language Patterns
Poincaré
Bilingual Greeting Card
Planet
Isle of Dogs


最後に

以上で「文脈の中を泳ぐデザイン」は終わりになります。最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

私は日々こんな感じで、「文脈」「解釈の違い」といったことを意識しながらデザインしています。国内外関わらず、移住するのが当たり前になり、複雑なアイデンティティーが増えてきた今だからこそ、文脈を行き来してデザインすることがますます必要になってきているように感じます。

私の事例が、そういう社会での一つの可能性として、皆さんの参考になれば嬉しいです。


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初回の「そもそもなぜ文脈とデザイン?」「文脈とデザインの関係を考え始めたきっかけは?」については以下の記事でお話ししています。


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