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やさしさにいつか答えたい 「わるい王様とりっぱな勇者」 二次創作詩02

お手洗いに行こうと思って
ちょっと起き上がったら
けんけん、と乾いた咳が出た
のどの奥あたりがヒリヒリしていて
無理に唾液を飲み込んだら
余計にヒリヒリになって
本格的にわたしは咳き込む

わたしたちのねぐらを、もう
壊さんばかりの勢いで
王様ドラゴンのおとうさんが
ずーん、って来てくれた

「ゆう!?」
「あ、だいじょぶだ、よっけほかほ」
「どうにも咳が止まらないね……」
「う、うん。けほっ」
「苦しくはないかい? 食べたいものは?」
「大丈夫、ありがと。何か飲みたい」
「待っていなさい」

元気だったら、本当に
目を見開くスピードで
おとうさんがこぼさないように
わたしのマグカップを
持ってきて手渡してくれた
わたしはとにかく
痛みを少し抑えたくて
ごくごく、と飲んだ
『いやしの実』をすり潰したような
みかんに近い、軽いすっぱさ
一口ごとに、ヒリヒリが治っていく

「王様」
「見ての通りだ。執務どころではない」
後ろを向くまでもなく、おとうさんは言った
いつもおとうさんを手伝ってくれている
サカサが、心配そうに顔を覗かせてくれたんだ
「しかしながラ」
「書類関係なら夜に終わらせる」
「ですガ……」
「王様だが。わたしはゆうの父親だ」
これ以上、何か言っても
今のおとうさんの耳には
入らないと思ったのかな
軽く会釈を残して
サカサは本来いるべき、謁見の間へ
戻ったようだっだ

「平気だよ、おとうさん」
「だが。まだ苦しそうだ」
「美味しいの飲ませてもらったから」
「そうなのかい?」
「うん。だってこんなに話せるよ」
「それならば、良かった……」

長い息をおとうさんはついた
嬉しさもあったけれど
申し訳なさもやっぱりあるから
わたしは

「お手洗い行って、もう少し寝てるね」
「立てるかい」
「わたし、勇者の娘だよ。おとうさん」
「そうだ。そうだな」

おとうさんが、ちょこっとだけ
目の端っこに涙を浮かべていた
だからわたしは
見なかったことにして
お礼をおとうさんに伝えて
お手洗いに向かった
と、背後からおとうさんの声

「ゆう」
「なあに?」
「パパはいないけれど」
「うん」
「おとうさんは、いつでも隣りにいるからね」
「うん」
「きっと、勇者のパパも。見てくれている」
「うん!」

心がほかほかになる
気持ちが前を向く
わたしは

勇者だったパパの娘で
王様ドラゴンの、おとうさんの娘

すごく、すごく
本当に、本当に
「ありがとう」
足りないくらいに
「どうもありがとう」

(画像はスクショより)

未熟者ですが、頂戴いたしましたサポートは、今後の更なる研鑽などに使わせていただきますね。どうかよろしくお願い申し上げます。