ECはどれだけ上りエスカレーターなのか
EC市場と異業種の参入事例
日本のEC市場規模は、現時点で約29兆円。すでに押しも押されもしない巨大市場ではありますが、「広義のEC」はまだまだ緒に就いたばかりです。例えば、コロナが広がって一気に市民権を得た感があるUber Eatsや出前館。車に乗る人なら、あの配達に一度は肝を冷やした人もいることでしょう。あれなんかは、飲食店のECですよね。それはわかりやすいと思います。
これは今に始まったわけではありませんが、チケット予約なんかもそうですね。今はチケット自体がQRコードだったりして、そうなると郵送の手間もいらない。あるいはタクシー。GOやDiDiなどのタクシーアプリにクレジットカードを登録しておけば、いつでもスマホで呼び出せてキャッシュレスでタクシーに乗れますが、あれも広義のECですね。ネットで予約して、ネットで決済するわけですから。
工業系の分野でも、EC参入事例はたくさんあります。例えば、工場に機械工具を販売していた会社が、そこから発展してDIY FACTORYというDIY専門のECになった事例。工具販売のEC(BtoB)は他にもたくさんありますが、BtoCに向けたDIY(これもまた時流に乗った市場)に舵を切ったところが、ここのユニークなところです。
また、大阪にある家族経営の町工場が鉄フライパンのシリーズを作り、そのデザイン性と機能性で人気を博し、フライパンのECをしている事例もあります。
農業、漁業の事例(六次化商品)は、工業系よりもたくさんあるので、ご存じの方も多いと思います。このように、BtoCの分野ではわかりやすいEC事例に事欠きません。
また、例えば不動産や車の購入などで、決済はリアルで捺印が必要な場合では、その手前のプロセスまでWebで行う場合もあります。以前書いたような、リード獲得からのマーケティングプロセスをWeb化している場合ですね。BtoBの場合も、そのようなケースがあると思います。それも広義のECです。
そう考えると、現時点で29兆円でも、今後はもっと成長することは間違いないと思います。2020年のGDPが538兆円なので、EC市場が今の倍になっても、EC化率は10%ちょっと。ただ、このような広義のEC市場を加味すると、最終的に20%程度はEC化してしまうんじゃないかとも思えます。これって、凄まじい上りエスカレーターです。すでに20年前から続いていて、未だにこのレベルの成長を期待できる分野が、他にあるでしょうか。
会社を変えるには、上りエスカレーターに乗ること
例えば、上記の例に出たタクシー、工具屋さん、町工場などは、その業種自体は決して右肩上がりではありません。時代の流れ、人口の減少によって、今後も縮小傾向が続くと思われます。しかし、そこにECという強烈な時流を取り入れることで、一気に成長軌道に乗せています。
その状態の会社は、社員の離職率も下がります。これは他の要因もあるでしょうけれど、会社が成長していると社員も定着するものです。結果、社内の雰囲気も変わります。社員が辞めないから、経営効率も上がります。なんなら、オフィスもきれいになります(上記で挙げた会社のいくつかは、私も実際に訪問しています)。銀行員はやたらとおべっかを言って持ち上げるようになります(本心ではないので真に受けないように笑)。
会社の調子がいい時は、すべてがいいスパイラルに入るものです。そのためには、何らかの「時流」を自社に取り込む必要があることは、再三ここで書いてきました。下りのエスカレーターを登るような行為から脱却する必要があるのです。
例えば、上記で挙げた工具屋さんは、商業車に乗って工場を回って配達するのが一般的です。トラスコなどの大手以外は地域密着が基本で、業界のピラミッド構造も非常に強固なので、取引ルート等はなかなか変更できません。その中で業績を上げるためには、一日の訪問数を増やす、既存客に紹介してもらって新規顧客を増やす、客単価を上げるといった行動をとると思います。
しかし、業界時代が縮小している中で、それをやるのは下りエスカレーターの中で上を向いて登っているようなものです。正直、その程度のことは他社もみんなやるし、結局価格の割引や人間関係に頼る従来の世界になってしまう。であれば、商品は同じでも、マーケティングのプロセスを変えて、Webで見込みリストを集める方がよほど効率がいい。そこには多少のノウハウとスキルは必要ですが、学べば誰でも身に付くものです。
何らかの形で「自社に時流を取り込む」と、会社は変わります。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?