正弦定理12
❏理:定
何をどう伝えよう?
確認しよう?
正弦宅の周りをうろついていた理。
見覚えのある男が近づいてきた。
「おまえはこの間の女ではないか」
あのときは熱で倒れたようだが、今日は元気なようだ。
「あ。はい。先日は…どうも。お身体はいかがですか?」
「あれから大変だった」
「そうだったのですか?」
「ああ。まず、男たちが私を抱え切れず3回も落とされた」
「…はあ。それは」
「ようやく寝床に寝かされたはいいが、つまずいた男がわたしの上に勢いよくかぶさってきて」
どうやら踏んだり蹴ったりだったようだ。
「重くて苦しくて死にそうだった」
肩を落として悲壮感を漂わせている。
一瞬吹き出しそうになったが、『笑ってはいけない』理はそう思い耐えた。
気の毒そうな微妙な顔をしてみた。
いやしかし、なんともおかしい男だ。
「そういえばおまえ。今日は装束ではないのか」
「都の中ですから…着替えました」
都の中で装束は、さすがに逆に目立ってしまう。
「そうか…。似合っていたがな」
「……装束が、ですか?」
「ああ。なんというか凛としていて綺麗だった」
この男は、綺麗という言葉を女に平然と言える男なのか……いや、貴族というのはこういう生き物なのか?
理はあっけにとられはしたが、すぐに頬が熱くなるのを感じた。 だいたい年頃の男性と話すこともあまりない。
「ところで何をしておるのだ?」
ちょうどいい。聞いてみよう。
「正弦様のことをお聞きしても良いでしょうか?」
「…正弦様の何を聞きたいのだ?」
理は少し間をおいた。
「どこか人のいないところで話したいと思います。お時間大丈夫ですか?」
※途中から読んでくれたあなたへ
名前の読み方が特殊です。
正弦 せいげん
定 さだ
理 みち
その他の登場人物もだいたい一文字の名前がほとんどです。
よろしくお願いします。
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