あの日、苺のショートケーキを我慢しながら観た『レオン』
先日、金曜ロードショーで久々に『ショーシャンクの空に』を観た。そのあと映画についてインターネットで調べているうち、思い出したことがある。
『ショーシャンクの空に』は、1982年に発表されたスティーヴン・キングの作品集『恐怖の四季』の中の『刑務所のリタ・ヘイワース』を原作としている。私は原作を読んだこともないし、これが作品集の中の一つであることも、今回初めて知った。しかし、『恐怖の四季』という本のタイトルは以前から知っていた。
今から遡ること約25年前、私が中学生だったころ、この本を夢中で読んでいた友人がいた。彼女は映画がとても好きで、私はよく彼女に映画の話を聞かされていた。広末涼子をややぽっちゃりとさせたような感じで、黒目がちの瞳をキラキラさせて話す様子がとても可愛いらしかったのを覚えている。
当時、彼女と私がハマっていたのが、これまた金曜ロードショーでテレビ放送された『スタンド・バイ・ミー』だった。4人の少年が「死体を探す旅」に出るという内容のこの作品。1950年代のアメリカの雰囲気や木の上の隠れ家、硬貨を投げて勝敗を決める“コイントス“のシーンに私たちは憧れた。劇中で流れる当時の洋楽もお気に入りで、私はクリスマスにこの映画のサウンドトラックのCDを親におねだりした。その年末に描いた彼女への年賀状の絵は、このCDジャケットをモチーフにした記憶がある。
彼女は映画の原作者であるスティーヴン・キングにも興味を持ち、『スタンド・バイ・ミー』の原作が入った『恐怖の四季』という本を読んでいることを教えてくれた。彼女は、「『スタンド・バイ・ミー』はホラーじゃないのに、作品集のタイトルがホラー作家らしいんだよね」と笑っていた。
彼女は私に、他にもいくつかの映画作品や俳優を教えてくれた。彼女が好きだった俳優は、『スタンド・バイ・ミー』にクリス役で出演していたリヴァー・フェリックス、『ザ・フライ』や『ジュラシック・パーク』のジェフ・ゴールドブラム、『メン・イン・ブラック』のトミー・リー・ジョーンズなどだった。(なぜか、だんだん渋くなっていった……。)
彼女とのエピソードで今でもたまに思い出すのが、ジャン・レノとナタリー・ポートマンが出演した映画『レオン』を見た日のことである。
私は環七沿いの彼女の自宅のマンションでこの映画を見た。私にはそこまで“映画熱“はなかったのだけれど、「絶対にこの映画は観た方がいい」と彼女に誘われたのだ。
中学生の私にとっては刺激的なシーンが多かったが、翳のある空気感、ナタリー・ポートマンの華奢な手足、ジャン・レノ演じる殺し屋のハードボイルドっぷりが、全てオシャレで大人に感じられた。
映画がクライマックスにさしかかるころ、友人のお母さんが部屋の襖を静かに開け、苺のショートケーキを差し入れてくれた。映画が大事なシーンを迎えていることは重々承知だが、ケーキも食べたい……。そっとフォークに手を伸ばそうとした私を友人は制し、「観終わるまで食べちゃダメ!」と言った。
私たちは身体をテレビ画面に真っ直ぐ向け、ラストシーンを観た。エンドロールが流れる頃、私は号泣していた。
やっとありつけたショートケーキの味は覚えていないけれど、私はそれを泣きながら食べていた。