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『#Eぐみに会いに行く。』vol.1 杉本親要さんインタビュー【後編】  心の底から「面白い!」と思える瞬間を増やしたい〜イカ研究から沖縄の地域貢献まで〜

今回お話をうかがったのは、大学でイカの研究に携わる杉本親要(すぎもと ちかとし)さん。筆者にとっては高校時代の同級生でもあります。前半では、「頭足類とうそくるい」と呼ばれるイカやタコの興味深い生態、そして杉本さんの最新の研究テーマについておききしました。(【前編】の記事はこちら
後半は、前任地・沖縄での体験や、今後の夢について伺います。

      『#Eぐみに会いに行く。』
vol.1

インタビュアー・神田朋子

杉本 親要・すぎもと ちかとし
都内の高校を卒業後、沖縄県の琉球大学に入学。同大学院の理工学研究科海洋環境学専攻において博士号を取得。その後、沖縄科学技術大学院大学(OIST)分子遺伝学ユニットに所属。2021年、慶應義塾大学法学部生物学教室に助教として着任。

「通じなくたって当たり前!」〜沖縄 OISTでの英語体験〜

神田:杉本くん、高校卒業からずっと沖縄にいたってことは、人生のほぼ半分を沖縄で過ごしたことになるんじゃない?

杉本:そうそう。高校生の時にはぜんぜん想像もしてなかった。

神田:沖縄ってやっぱりいいところ? 

杉本:そうだね。まず、人がすごくいい。あと、日本人の原点みたいなものが沖縄にあるんじゃないかなって感じがする。今でも「ユタ」っていう霊媒師の人がいて、人生の節目をそれで決める人もいるくらい、霊的なものが身近にあったり。先祖との繋がりも、ものすごく濃い。そういう独特の文化が当たり前に残ってるのも、いいなって。もちろん自然も素晴らしいし。

神田:そうかぁ。とっても素敵なところなんだねぇ。 最近までいた、沖縄科学技術大学院大学……OISTオイストっていうのはどんなところ? 公式サイトで見ると、ものすごく先進的な感じだけど。

杉本:そうだね。最新の顕微鏡とか遺伝子解析マシーンとかがあって。研究メインの教育施設ってところかな。あと、研究そのものとはまた別の話なんだけど、OISTって、外国人が圧倒的に多くて。で、公用語が英語……

神田:え?! じゃあ、英語で研究をしてたの?!

杉本:まぁ、そもそも科学論文って主に英語で書くからね。でもスピーキングについては、OISTにいた5年間のおかげで、なかば強制的に鍛えられた(笑)。

神田:でも確かに、何かをするために英語を勉強するのと、英語自体が勉強の目的になるのとでは、上達の仕方が違うだろうね。

杉本:そうそう。OISTにいるときに思ったのが、英語はやっぱり「ツール」なんだなと。日本人にはまだ、英語コンプレックスがある人が多いと思うんだけど。それもなんか、ちょっと誤解してる部分があると思ってて。

神田:どういうこと?

杉本:普段のネイティブ同士での会話でも、聞き間違いとか、誤解がいっぱい起きてるの。そうすると、話の途中で「いやいや、そういうことじゃなくって」って訂正してるようなシーンがあって。日本人同士だって、常に100パーセント伝わるわけじゃないでしょ?

神田:確かに!

杉本:だからネイティブも、会話の中で調整していくんだよね。

神田:なるほど! コミュニケーションをとりながら、足りない部分を補ってるんだ!

杉本:そうそうそう。

神田:確かに、最初から100パーセントを目指そうとすると、何も話せなくなっちゃうよね。

杉本:うん。だから、「通じなくたって当たり前」って思ってから、だいぶ気が楽になって。あとはもう、生き抜くために、何とか英語を使ってた感じ(笑)。

「あの頃の自分」に伝えたいこと

神田:そういえば、杉本くんの奥さんは沖縄の人なんだっけ?

杉本:そうそう。大学時代に剣道部で一緒だった人。結婚したのは10年ぐらい前、博士号を取ったのと同時期に。

神田:あれ? 高校のときも剣道部だったっけ?

杉本:だったよ。覚えてない?

神田:……ごめん(笑)。私、今回インタビューしようとしてから気付いたんだけど、意外と高校の時の記憶があやふやなんだよね。

杉本:そうか(笑)。まあ確かに、文化祭とか体育祭とかの行事週間以外ではそんなに関わってなかったかもしれない。

神田:でも今回、杉本くんとお話させてもらって、あの頃もっと話してれば良かったなって思った。高校の時はあんまり喋ってなかった他の友達とも、今ならもっと仲良くなれる気がする。「自分の世界を決めつけないで、いろんな人と話したり、いろんな考え方を知ろうとした方がいいよ」って、あの頃の自分に言ってあげたい。

杉本:うんうん。
——俺の場合は、「自分のことだけじゃなくて、もう少し周りを、特に家族のことをちゃんと見た方がいいよ」って、言いたいね。

神田:家族?

杉本:うん。学校とか剣道にかなり打ち込んでたからなのかな。その時の家族のイベントってのが、ぜんぜん、頭の中に残ってないんだよね。うち、中学2年生ぐらいからずっと母子家庭だったんだよ。

神田:そうなの?

杉本:うん。で、兄貴と弟がいるんだけど。俺が高校の時に、弟が、父親のところの方に行っちゃって。

神田:そうなんだ。

杉本:それはなんかその、母親との間に色々あって。で、兄貴はそれをサポートして……みたいなのがあったらしいんだけど。俺、その時のいざこざとか、大事なシーンとかがあったのをあんまり知らなくて。

神田:そうか。

杉本:同じ空間にいたはずなのにね。学校行ったり、塾行ってたりして、物理的に見てなかったのもあるのかな。その、弟がけっこう辛かった場面とか、母親が苦労してたのとか。あんまり、そのとき気付いてなくてさ。で、今、けっこうみんなバラバラになっちゃってて。

神田:うん。

杉本:俺はすごく楽しかったわけよ、高校時代が。だからその分、ちょっと申し訳ない気持ちもあって。なんか、自分だけ突っ走っちゃったような感じで。

神田:そっかぁ。

杉本:なんか、俺は割と他人に無頓着というか。人間自体に対しては興味はあると思うんだけど、実際はけっこうドライで。家族に関してもね、ドライなんだと思う。だから、過去の自分に言うとしたらやっぱり、「家族のことをちゃんと見たほうがいいよ」って。それ以外はもう、放っておいても自分は沖縄に流れ着いてたと思うから。もし生き直したとしてもね、同じ場所に来てたと思う。

一見、繋がりがないことも、実はどこかで繋がっている。

神田:杉本くんは、イカの研究が専門なんだよね? 事前に見せてもらった資料にシークヮーサーのことも書いてあったけど。

杉本:ああ、あれはね。OISTで、沖縄の柑橘類に関するゲノムプロジェクトがあって、「お前、沖縄詳しいんだろ?」ってことで呼ばれて(笑)。

神田:そうなの?

杉本:で、まぁ、自分は植物の知識はほぼないから。実際にやってることとしては、地元の人のところに行ってお願いをして、農園とか、お家の庭のミカンの木から葉っぱを分けてもらって。

神田:へぇ。

杉本:で、その葉っぱからDNAを抽出して、さらに遺伝子解析の専門家に渡す。

研究室にはDNAを抽出するための装置もありました。

神田:ということは、やっぱりイカ研究とはぜんぜん関係ないんだね。

杉本:まぁ、だからはじめは片手間なところもあったんだけど。でもやっぱり人と話すのは好きだし、ミカンを探しに山登りもしたりして。それまでは動物の世界しか知らなかったけど、植物の世界ってまたぜんぜん違くて。それも刺激になったり。

神田:そうなんだ。

杉本:衝撃的だったのが、たとえばミカンて「」っていう手法で増やしてくんだけど。切った枝を削って、別の植物の土台に刺して、そこから根付かせるの。そうすると最終的に、根っこの先から地上近くまでと、その上の幹の部分が、全く別の植物になる。

神田:えっ! 知らなかった。

杉本:それは街路樹とかにも、よく見るとあったりして。幹の途中で、きれいに境目ができてるんだ。

神田:ふーん。

杉本:それを聞いて俺、「おい、根っこ! お前、それでいいのか?!」って思って(笑)。

神田:ハハハ! 別の植物のために栄養を吸ってあげてるわけだもんね。

杉本:そうそう。動物は「自分の生死をどうするか」って世界で生きてるから、基本的にそんな融合なんてあり得ないし。でも植物はそれを平気でやってて。

神田:うん。

杉本:それに植物って、よく考えると、同時に2つの世界を生きてるんだよね。ひとつは俺たちが普段見ている土の上の世界。あともうひとつは、土の中の世界。土の中っていうのがまたものすごい世界で、いろんな生き物がいるし、水中以上にぎっしりしてる!

神田:おぉ……。なるほど。

杉本:だから、ま、イカの研究には直接役立つわけじゃないけど、やっぱりこう、自分にとっては新しい扉が開けた感じがして。

神田:確かに。視野が広がるかもね。

杉本:人間が勝手に分けてるだけで。そもそも山も海も川も、全部が繋がってて、かなり密に連携しあったり、関係性を持ってる。そういうところに気付いていくのがまた、面白いな、と。

「もう一回やってもいい」と思える人生にしたい。

神田:杉本くんは、今後どんなことをしていきたいの?

杉本:そうだね。この前の同窓会の時、みんなで「もう人生折り返し地点だね」なんて言ってたじゃない?

神田:うん。

杉本:人間て、今は医学の進歩とかで長生きしてるけど、DNAの研究によると、本来の自然寿命は38歳なんだって。

神田:え!

杉本:それで、40歳ぐらいからっていうのは、それまでに得たことを使って巡航運転に入っていくフェーズだっていうのを聞いたことがあって。だから、自分としては、今までふつふつと思ってたことに向かって、もうスタートを切っていこうとは思ってる。

神田:具体的には何をするの?

杉本:まずは、沖縄に帰ろうと思ってて。沖縄って、本当にいいところだと思うし、沖縄の人たちにもすごくポテンシャルの高さを感じるんだけど、色んな問題がそれにモヤをかけている気がして。そのひとつが、「子供の貧困」。

神田:そんな問題があるの? ぜんぜん知らなかった。

杉本:で、やりたいこととしては、できれば義務教育が終わる中学校までの食費の全てを、無料にできるようなシステムを最終的に作れたらなと。今までみたいな研究ももちろんやりたいから、沖縄の大学の先生をやりながらできればベストだけど。具体的には、同時並行で何か会社を作って、そこの事業としてそういう無料化みたいなことができるようにしたい。だからそれに向けて、今のうちからできることはやっていきたいと思ってる。

神田:うわぁ、すごいなぁ。でも、杉本くんが今やってることとはぜんぜん違うね。

杉本:確かに、違うんだけどね。でもそれはそれで「杉本親要すぎもとちかとし」っていうヒトガタの中には、矛盾なくおさまってるんだよね。共通点というか、繋がりが何かって言われると、すぐには答えられないんだけど。すごく自然に、やりたいと思ったことをやってるわけだから。

神田:うんうん。

杉本:いつも、おなかの底から何かこう、面白いって思える瞬間……おヘソの下がくすぐったくなっちゃうぐらいの、そういう瞬間を、人生のうちで増やしたいって思ってる。で、死ぬ前に、「もう一回、同じ人生やりたいか?」って聞かれた時に、やってもいいって思えたら、大成功なんじゃないかな(笑)。

神田:わー! それ、最高だね!!
本当に今日は、ステキなお話をたくさんしてくれて有難う! 楽しかったぁ〜。

杉本:いやいや、こちらこそ。

神田:これからも応援してるし、ご活躍、楽しみにしてます! またお話聞かせてね!

杉本:ぜひ(笑)!

(取材日:2022年12月26日)

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