Post-it! 気になる一曲 『イギリス組曲 第6番 ニ短調 BWV811 ジーグ』

ヨハン・セバスチャン・バッハ/作曲
アンドラーシュ・シフ/ピアノ
University Music School, Cambridge
1988年


第6番のジーグ。イギリス組曲全曲の中で、私が最も好きな曲だ。
ジーグはイギリス組曲の最終曲として、それぞれの組曲の最後を華やかに締めくくる舞曲である。

ジーグ(Gigue)はスコットランドとアイルランド(jig)の跳舞に由来する3拍子系の舞曲で、活発なテンポを特徴としている。終曲にふさわしい技巧を有し、フーガの形式で書かれることが多いが、曲の後半では主題がしばしば反行形にされる。
『教養としてのバッハ 生涯・時代・音楽を学ぶ14講』(礒山 雅 他編著 アルテスパブリッシング 2012年)より

ニ短調の緊迫感に満ちた駆け上がるような旋律にトリルが追い討ちをかける。後半に向かいその旋律は時に不穏にスリリングに変化していき、一瞬、現代曲を聴いているような錯覚に陥る。

リヒテルは自身の音楽論評「音楽をめぐる手帳」の中で、アナトーリー・ヴェデルニコフの演奏するイギリス組曲第6番を「不思議な印象ーピアニストは空気のない場所で演奏している」と表現している。ヴェデルニコフの演奏は聴いていないのだが、まさに私がこの曲に対して持っているイメージをぴたりと言い当てている。私にとって第6番のジーグは、この世のものではないような「異空間」を感じさせてくれる曲だ。
リヒテル自身もイギリス組曲の第3番、4番、6番を録音しているようだ。いずれ聴いてみたい。