「台北政府」の“民主化”は正統性の根拠となるのか?
「台北政府」(自称「中華民国」)について「民主的に選ばれた政府であるから、正統性がある」というような言説をしばしば見聞きする。
しかし、民主主義を論拠に「台北政府」の正統性を認めるためには、最低限「中華民国」の看板を下ろして貰わないと困る。
何故ならば、「台北政府」が実効支配している土地のうち、中国の一部であるのは金門島と馬祖島、烏坵郷、東沙諸島に限定されるからである。
仮に台湾や澎湖諸島、南沙諸島が中国の一部であるという、中国政府と「台北政府」の双方の主張を認めたとしても、その実効支配区域は中国全体のほんの一部である。その、僅かな地域のみで「民主的」に選挙をしたからといって、「台北政府」が「中華民国」全体の政府であるとどうして認めることが出来るのか。そんなことを言う人間は、それこそ「民主主義」を理解していないのではないか。
もっとも、かつては民主主義を掲げても制限選挙の国があったし、また中国のように「人民の敵」を排除した人民民主主義も存在し得るから、その意味では「自由地区」の住民のみによる「民主主義」も理屈の上では成り立つ。
だが、「自由地区の住民だけによる民主主義」を全体の正統性の根拠とするのは、甚だ困難である。
そのことは、民進党の人間はもちろん、「中華民国の本土化」を唱える中国国民党の一部も内心では理解しているところである。
ただ、アメリカからすると対中国の軍事拠点となる金門島等を「台北政府」が支配していることは都合がよく、「台北政府」が仮に名実共に「台湾だけの政府」となろうとしたら、全力で妨害するであろう。
これまで何度も述べた通り、『サンフランシスコ平和条約』第25条の趣旨は台湾の放棄はあくまでも同条約を批准した国々の利益のために行われるのであり、同条約を批准していない国のために日本の利益が減損されることは無く、要するに、台湾は日本に残留するか、『サンフランシスコ平和条約』の批准国の領土となるか、それとも、“日本から”独立するか、しか選択肢は無いのである。
いずれを選択するにせよ、「台北政府」は中国との連続性を否定しないといけないし、金門島と馬祖島、烏坵郷、東沙諸島は中華人民共和国に、南沙諸島はベトナム社会主義共和国に、それぞれ返還しないといけない。
金門島で「台北政府」が民主的に統治をしていたかは関係ない。それを言い出すとイギリスには香港を中国に返還する必要は無かったことになるが、そんなバカな話はない。
無論、「台北政府」が対中国の“切り札”となる金門島を手放すことはあり得ないを判って私は書いている。つまりは、「台北政府」は今後も当分は違法な政権として存続していくし、それをアメリカも支えていくのである。