【古典洋画】「少女ムシェット」
ロバの目を通して人間の世界を見つめた「バルタザールどこへ行く」(1966年)も素晴らしかったが、ロベール・ブレッソン監督の、この「少女ムシェット(Mouchette)」(1967年、フランス)も、衝撃的な展開の素晴らしい作品であった。
主人公の、14歳の少女ムシェットは、病気で寝たきりの母親とアル中でDVの父親、すぐにギャンギャン泣く赤子と一緒の極貧暮らし。
貧乏で汚いナリであることから、学校では友達もいなくて揶揄われ、教師にはいじめられ、家では母親と赤子の世話をし、時々、カフェで給仕の手伝いをして小遣いを稼ぐという日常に埋没した完全なる孤独の日々を送る。
学校の帰り道、隠れて同級生に泥を投げ付けることで日頃の憂さを晴らしていたが、嵐になった学校の帰り道、家に帰りたくなかったムシェットは、森に入り込み、知り合いとケンカしてた密猟をする男に出会う。
男は、彼女を小屋に誘い、最初は優しく接していたが、てんかんの発作を起こし、ムシェットが世話をして、嵐のために小屋で一晩を過ごす中で、男は半ば強引に彼女を犯す。
家に帰ると、病気の母親は自殺するように深酒して死んでしまう。
翌日、密猟をした男は逮捕されて、ムシェットとの噂が流れる。どこへ行っても、ムシェットの味方をする者はいなかった。居場所がなくなったムシェットはついに…。
まさに受難の少女ムシェットはドン底まで落ちる。
モノクロで、BGMもなく、台詞もサイレント映画のように少なくて、断片を繋ぎ合わせたような、動きのない肖像画のように描かれる。そして、周りの大人たちの日常や、キリスト教の村の雰囲気を見せることで、ムシェットの来るべき運命が想像できる。
最初に、猟師が罠を仕掛けるシーンがあるが、ムシェットは若くして人生の罠にハマってしまったのだ。
唯一、遊園地で出会った男の子と遊ぶところで可愛い笑顔が見られる。すぐにDVの父親に殴られてしまうが。
母親が死んで、赤子のミルクを貰いに行った帰り、母親の葬儀で着る新品の服を身体に巻き付けて、森の斜面を何度も転がり、遂には池の中に落ちて姿を消すラストシーンは、突然のことで一切の説明もされないが、これほど衝撃的な“終わり”はないだろう。
苛烈を強いられる人間の生は、どこまでも孤独で退屈で苛烈であり、ただ死によって生の輝きが解き放たれるのだ。