【古典洋画】「第三の男」
オーソン・ウェルズが考案したとされるハリーの有名なセリフ。
「ボルジア家が支配するイタリアは、戦争、テロ、殺人、流血の連続だったが、ミケランジェロやダヴィンチ、そして、ルネッサンスを生んだ。しかし、同胞愛に、平和と民主主義のスイスは何を生んだ?ハト時計だよ」。
戦争はイヤだけど、退屈な平和も考えもんだねぇ(笑)。やはり人間には、破壊と争い、破滅、ついでに苦悩と矛盾が似合ってるかもしれない。
キャロル・リード監督の、1949年の名作「第三の男(The Third Man)」を、格安DVDで久々に観賞。
第二次大戦直後のウィーンを舞台にしたフィルム・ノワールなのだが、アメリカの作家ホリー・マーチンス(ジョゼフ・コットン)が、友人ハリー・ライム(オーソン・ウェルズ)の恋人アンナ・シュミット(アリダ・ヴァリ)に思いを寄せるも、徹底して拒否されるという結末の悲しい失恋の物語だなぁ。
ホリーは、どんなに思いを寄せてアンナを助けても、彼女のハリーへの思いを崩すことはできなかったわけだ。
チョー有名なラストシーン、ホリーに一瞥もくれないってのは、一途な愛を持った女の強さをまざまざと見せつけられたような気がする。男は過去を抱えながら前に進むのに対し、女は過去を捨てながら前に進むのだね。
ハリーが、粗悪なペニシリンの闇取引でどんなに犠牲者を出していようとも、自分を助けてくれた男への一途な愛が決して揺らぐことはないアンナ。アンナにとっては、ただハリーという男そのものを愛しているのであって、彼の仕事や行動は関係ないことなのだ。
そう思えば、ホリーが、警察を嫌って、独自の正義感を振り回し、他人事に首を突っ込む、哀れな男のような気もしてくる。
最後の、地下の下水道での攻防は、モノクロならではの光と影を巧く使った演出で、ハリーの焦りと不安の内面を出した、まるで表現主義のようで、確かに見事だね。
さらに、チョー有名なテーマ音楽も、追い込むような犯罪サスペンスとは違った、冬の並木道にピッタリの、軽くオシャレな感じがして、この違和感が逆に素敵だ。
嘘の葬式で始まって、本物の葬式で終わる…。
「いや〜、映画って本当に良いもんですね〜」との水野晴郎先生や淀川長治先生の声が聞こえてきそうな、昔の映画らしい映画だ。