【古典邦画】「何が彼女をさうさせたか」
昭和の初期に作られた一部の映画を「傾向映画」という。当時の不安な社会状況を背景として、階級や貧乏による徹底した不幸が描かれることが多い。ついては、社会主義思想の影響を受けたものだ。
その傾向映画の代表作といわれた、1930(昭和5)年の作品「何が彼女をさうさせたか」をAmazonプライムにて。監督は鈴木重吉。
昭和5年は、濱口首相が、東京駅で、右翼の佐郷屋留雄に狙撃され、重傷を負った事件があった年だ。
親が生活苦から自殺して孤児となった14歳の少女が、叔父を頼っていくが、サーカス団に売られてしまう。
なんとかそこを逃げ出すが、詐欺師の手伝いや琵琶法師(演じたのは藤田まことの親父だって)の女中奉公、ある議員のお手伝いと転々とするが、いつも搾取されるだけ。
あまりにも辛い日々が続くために、サーカス団で知り合った青年と身投げするが、生き残ってしまう…と徹底した不幸に見舞われる。
全てを失って、たどり着いた教会施設・天使園でも、主人の偽善と不正を目の当たりにして、ついに自暴自棄となって教会に放火する。
少女は、聖書を十字架に投げ付けて、「神様が愛なんて、みんな嘘です!天使園なんて嘘ですッ。嘘の集まりです。嘘だ!」と叫ぶ。そして、火の中で「焼けろ!焼けろ!みんな燃えちまえ!」と踊り狂う…。
もう、これ以上ないような不幸の連続。八百屋お七やアンチクリスチャンのブラックメタルの教会放火を思い出してはしまったが、少女がカワイイから、また不幸が際立つ。
この映画もフィルムが紛失して、長い間、幻の名作とされていたが、ソ連(今のロシア)で、欠落部分があったものの、フィルムが見つかったという。ラストの大きな欠落部分は字幕で補っている。少女を演じたのは高津慶子だが、後年、消息不明となってる。
90年も前のサイレント映画だが、見応えがある。少女をそうさせたのは、世界大恐慌の時代の、この世の中だ!と言わんばかりのイデオロギーが見え隠れする。ある意味でプロパガンダ映画かもしれない。
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