「ヤスケンの海」
スーパー・エディターこと安原顯(アキラ)氏は昔、書評誌「リテレール」が気になって、定期的に買ってた。知がオシャレな時代だったし(笑)。
“誰々が薦めるベスト◯◯”の企画が好きで、読む本や観る映画も参考にしてた。
安原氏の単行本も、大物作家をクズなどと貶しまくる、ぶった切るのが痛快で、いくつか読んだ。
一回だけ、出版関連のパーティか何かで会って名刺交換をしたことがある。
肺ガンを患い、余命1ヶ月宣言をして、入院を余儀なくされても、最期まで原稿を書いてたが、2003年1月20日、遂に死去。63歳没。
そんな通称、ヤスケンの数少ない友人の1人が、出版界で暴れまくった彼の生き様を書き下ろした本。
異常に文学を愛して、またジャズを愛した人だから、会社の中で大人しく会社の方針通りに出版に携わってたわけがない。
大江健三郎氏や村上春樹氏との軋轢をはじめ、作品が自分に合わないと、ヘーキで、クズ本、駄作、愚作と後を考えずに貶しまくってしまうため、常にトラブルの連続だ。ヤスケンを嫌ってた出版業界の人も多かったのでは。
その裏で、若い頃は借金でもしてメチャクチャ本を買ってた一方で、高い本は万引きして読み終わったら古書店に売ることをやってたり、死んだ後で、担当していた作家の自筆原稿を無断で古書店に売却していたことが明らかとなったり(←金に困ってたのか?)…。
良く言えば、常識を外れた豪傑、いい加減で破天荒、悪く言えば、独りよがりのクズ野郎だったらしい。
こんなキャラのヤスケンを包んでた奥様はメッチャ懐が深い。
見向きもされなかったり、悪口を言われたりすると、それまでどんなに懇意にしてても、一転、クズ、クズと罵詈雑言、貶しまくる様は、ちょっとメンドーなオバさんに似てなくもない。風貌も。
遠くから仕事を見てる分には面白いけど、近くには決して寄りたくないタイプの人だね。
著者が書いてる。「ヤスケンが死んで、一向に、悲しさ、寂しさ、涙というのが出てこない。あいつならこうわめく、怒る、怒鳴るという場面がヤスケンの死後に何度もあった。そして、ヤスケンの罵詈雑言を想像してゆくうち、おかしくなって笑ってしまうのだ」。