【古典映画】「残菊物語」
溝口健二監督の、1939(昭和14)年のモノクロ作品「残菊(ザンギク)物語」。YouTubeにて。
戦前の作品だが、まさに溝口監督の真骨頂、初期の最高傑作じゃないだろうか。2時間を超える大作だ。ラストは俺もウルウルきちゃった。
溝口監督以外にも何回か映画化されてるみたいだが、歌舞伎役者の二代目尾上菊之助と乳母のお徳の、身分違いの哀しい残酷な恋の話だ。
溝口監督の特色の一つである距離を取ってからの「ワンシーン・ワンカット」、演者の表情がわかりにくいアップなしの撮り方が目立って、全体的な暗い雰囲気や時間の流れ、緊迫感が顕著に現れている。
菊之助は、ボンボンとして甘やかされて育ったため、芸は未熟であったが、それを指摘する者は周りには誰もいなかった。
しかし、乳母であるお徳だけは、彼のことを想い、本人に真実を述べて注意をする。
菊之助は、そんなお徳に心を惹かれるようになって、妻にしたいと考えるようになった。
そのことに気付いた菊之助の母親はお徳に暇を出す。
家族一同が反対する中、菊之助は、家を飛び出し、お徳を追って関西に行く…。
菊之助は、お徳を名ばかりの妻として、関西でドサ周りを続けるが、一向に目が出ずに、旅芸人にまで身を落とす。荒れるばかりの菊之助をなんとか救いたいお徳は、内緒で菊之助の家に寄って、彼を戻してくれるように頼み込むと菊之助の前から姿を消す。そして、舞台に立った菊之助は、素晴らしい芸を見せて喝采を浴びる。晴れてお徳を妻にしても良いと許しが出て、お徳を訪ねるが、彼女は度重なる旅で身体を壊しており床に伏していた。
家柄や世襲、しきたり、世間体の犠牲となった男女だが、特に、自分の身を削って、好きな男のために徹底的に尽くすという女を描くのは溝口監督の最も得意とするところ。
ラスト、床に伏したお徳が「これでやっとあなたの妻になれる。一目あなたに会えたから、もう思い残すことはない」と菊之助の晴れ舞台を見ることも叶わずに静かに死んでいくところは、菊之助のお披露目の場の祭りのような明るいシーンと対照的で暗くてとても哀しい。
溝口監督は、自分の母や姉の経験から、当時の、芝居や芸事の、ある種、封建的で男性的な社会を、悲惨な状況に陥ってしまう女性を描くことで痛烈に批判しているのだと思う。
戦前の古典映画だが、溝口監督が終生、追い求めたテーマは、形を変えてでも、色褪せることなく、現代においても充分生きていると思う。
脳出血により右片麻痺の二級身体障害者となりました。なんでも書きます。よろしくお願いします。