【古典邦画】「笛吹川」
木下惠介監督の、1960(昭和35)年の作品 「笛吹川」。原作は好きな深沢七郎。
デコちゃん(高峰秀子)が、嫁いで来たおけい役で、18歳の少女の頃から、85歳の老婆になるまでを1人で演じている。彼女お気に入りの専属のメイキャップを起用したという。
メイキャップと同様、老婆となったデコちゃんの、息子を想って悲しみに暮れる演技も、鬼気迫るものがあって凄まじい。
舞台は戦国時代だけど、クロサワさんのように、武将や戦いを主眼としたダイナミックでスペクタクルなものではなく、あくまで、合戦に左右されてしまう庶民の喜怒哀楽と暮らしを取り上げたもので、そこが、強く反戦の思想を持つ木下監督らしい。
多人数を起用した合戦のシーンもあるけど短く、付け足しみたいだ。
モノクロなのだが、空や川、畑等にカラーを着色した不思議な映像となっている。
笛吹川にかかる橋のたもとに貧しい家を建てて住む百姓のおじいの一家。
孫の半蔵が合戦で手柄を立てたとして、殿様に誉められるが、おじいは殿様に言われた役をミスってしまい家来に斬られてしまう。
そこから、半蔵をはじめ、産まれた男の子が成長して合戦に行くと討死するようになり、次々と親類縁者も不幸な目に遭う…。
まるで白土三平先生の「カムイ伝」のようで、戦で手柄を立てることを望むノーテンキな男の子(ボコという)は、母おけいの言うことも聞かずに合戦に赴く。やたらと“ノーテンキ”だからと言われる。
3代に渡って、合戦に左右される百姓一家。深沢七郎らしく、信仰がある土着の生活と、ノーテンキに合戦に出向く若者と、死地へ赴く息子を必死に案じる母と、理不尽な出来事に言葉を失う父と、滅び行く百姓一家を無常感と共に描いており、キャストも凄みのある演技で傑作だと思った。
息子を案じるあまり追いかけて行った母も合戦の巻き添えで死に、独り残された父親。橋の下でしゃがんだところに殿様の旗が流れて来るが、彼はその旗を蹴って邪険に扱う。












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