【古典邦画】「山椒大夫」
溝口健二監督の代表作「山椒大夫」(1954年)。図書館にあったので、やっと観たぜ。
海外でも、名だたる映画監督等、評価が高く、たくさんのオマージュを生んだだけあって、これでもかと最後まで悲劇に満ちた溝口ワールド全開の、素晴らしい作品であった。
原作である森鴎外の小説って、こんなに悲惨だったっけ?
平安時代末期の話。
将軍の命とはいえ、逆らって農民に寄り添う平正氏は、筑紫に左遷されることに。
その後、残された妻は、2人の子供と下女を連れて夫のいる筑紫へ向かう。
妻は、お馴染みの田中絹代で、2人の子は、厨子王を津川雅彦、安寿を香川京子が演じる。
しかし、道のりは遠く、女・子供の足取りでははかどらない。
途中、人買いに騙されて、親子共々、離れ離れになってしまう。
妻は佐渡に渡り遊女に、厨子王と安寿は丹後の山椒大夫という男の下、奴隷として働かされる。
兄妹はそれから10年もの間、山椒大夫の下、奴隷として働くことになるが、ついに2人は逃げ出す決心をする…。
どこまでいっても悲劇ばかり。まずは同行した下女が舟から落とされて溺死、山椒大夫のところから逃げ出す際に安寿は兄をかばって水死、父の平正氏は左遷先の筑紫で病死、最後の最後に、厨子王は、佐渡に流されて遊女となった盲の老いた母とやっと再会を果たす。
逃げ出した厨子王は、お上に平正氏の嫡子であることを涙ながらに訴えて、国守となって、山椒大夫に復讐を遂げ、同じ奴隷となってた人々を解放するけど。
厨子王は、幼い頃に父である平正氏に教えられる。
「人は慈悲の心を失っては人ではないぞ。己を責めても人には情けをかけよ。人は等しくこの世に生まれてきたものだ。幸せに隔てがあって良いはずがない」。
しかし、その教えを守っても、身内は死に、悲惨な目に遭って、逃亡先の寺で住職に諭される。
「人間はな、我が身の世過ぎに変わりがなければ、人の幸せ不幸せにはひとかけらの同情心も持たぬ、残酷なものだ。その心の大元大根が改まらぬかぎり、そなたの望むような世の中は来ないぞ。この濁った世の中で自分の心を曲げずに生きていこうと思えば御仏の救いにすがるより仕方がない」。
悲惨な悲しみのシーンが続くけど、溝口監督の風景描写は、モノクロでも幻想的で美しい。多分、日本が持つ独特の情念といったものが際立つように演出したのではないか。
徹底した悲しみの先にある涙と感動が醸し出す、おどろおどろしい情念の美。
優しい個人は徹底して蔑ろにされて、力を持つ者は徹底して憎らしく描かれる。
溝口監督の、こうしたマゾヒズム的表現は、監督自身の経験によるものだろうか?もしくは個人的な嗜好によるものなのか?
反目した奴隷の額に焼きごてを当てたり、逃げ出した遊女のアキレス腱を切断したり、ハッキリとは映さないけど残酷を思わせる描写もある。
日本にもこんなに素晴らしい映画がまだまだあるね。
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