【古典邦画】「あらくれ」
成瀬巳喜男監督の、1957(昭和32)年の作品「あらくれ」。YouTubeにて。
原作は、徳田秋声の小説で、前に読んだなぁ。思い出した。
これぞ成瀬巳喜男監督の真骨頂って感じで、気性の激しい主人公のお島が、これまたダメ男に翻弄されて、逞しく張り合いながらも、パートナーを替えて、商売で独り立ちして生きていく話だ。
お島を演じたのはデコちゃん(高峰秀子)。べらんめえ口調でグチを吐き、時に、ダメ男と殴り蹴り合うケンカをする、ラジカルな女性を見事に演じ切っている。
時代は大正初期。
親が決めた縁談を蹴って東京へ逃げ出した、田舎の庄屋の娘・お島は、缶詰屋の若主人(上原謙)の後妻となる。
しかし、夫の浮気が激しくて大ゲンカの末に離縁、今度は、東北の山村の旅館で女中として働き始める。
旅館の若旦那(森雅之)の愛人となるが、若旦那の病気の妻が快癒して帰ってきたために、また東京へ戻る。
戻った彼女は、洋服屋を開業して軌道に乗せて、裁縫職人と再婚するが…。
お島に寄って来る男(身内も)は、揃って、最初は真面目で良いが、金が入るとすぐに放蕩に散財してしまう情けないクズばかり。多分、お島がそういうタイプの男を好きになってしまうのだろう。
最後の男がブ男(加東大介)だけど、アッチの方がメッチャ強くて別れられないというのは笑うけど。
それでも彼女は、時に、ハイカラな洋服を着て、練習して自転車にも乗り、学校の校門前で宣伝ビラを配ったり、決してへこたれることはない。そして、夫に理不尽なことをやられると、泣くより先に手を出すのだ。
成瀬監督が、こんなに男勝りの逞しいヒロインを描くのは珍しいと思う。懇意にする男から電話があって急に機嫌が良くなるカワイイ面もあるけど。
浮気する夫とケンカになって階段から落ちるけど、負けずにホースで水をぶっかける。夫の浮気相手の家に乗り込んで、女をメチャメチャに引き摺り回す。このケンカっ早い様が気持ちが良くて笑ってしまう。デコちゃんにはピッタリの役だと思う。
商売は、苦労の末に軌道に乗ったと思えば落ち込んで、夫に裏切られる。とにかく性格と同様、浮き沈みが激しい。
大正ロマン的な、男に負けずに自立を始めた自由な女性を描いたこの作品、成瀬監督の傑作だった。
脳出血により右片麻痺の二級身体障害者となりました。なんでも書きます。よろしくお願いします。