【古典邦画】「華岡青洲の妻」
1967(昭和42)年の、増村保造監督(脚本は新藤兼人)の作品「華岡青洲の妻」。YouTubeにて。
原作は有吉佐和子の小説。
青洲役の市川雷蔵はイイとして、その母・於継(オツグ)がデコちゃん(高峰秀子)、妻・加恵(カエ)が若尾文子という、俺にとっては豪華なキャスティング。
その、於継と加恵のバッチバチ、ドロドロの、“嫁姑戦争”が繰り広げられる。男みたく表向きに争うことはなくても、陰で、まさに、凄まじい女の情念のぶつかり合いだ。
青洲の医学のために、自ら全身麻酔の人体実験を、競うように申し出るなんざ、お互いに母、妻というプライドをかけて、なんなら命を犠牲にしても構わないという、燃えたぎる深い情念の静かなる争いは、ホント驚愕だね。
昭和の大名優の2人だからこそ、その演技が映えるのだ。デコちゃんは、この映画を好きな出演作の一つに挙げている。
華岡青洲は、江戸時代の外科医で、世界で初めて全身麻酔を用いた乳ガン手術を成功させた。薬草などを使い、麻酔薬を作るのだが、動物実験では成功しても、人体への効果はわからずに、弟子などが実験台になることを申し出たが、母と妻も投与実験に参加したという話があるのだ。
元々、名家の娘であった加恵は、前から於継を気品のある美しい奥様と憧れていた。
ところが、青洲の嫁となると、青洲は医学修行中で、数年間、夫のいない生活を強いられて、青洲の学費稼ぎに内職をする毎日を送る。
やがて、青洲が戻ると、母・於継の加恵に対する態度が一変するのだ。
於継が妻を押し退けて青洲の世話を焼くために、加恵は於継を密かに恨むようになる。
そして、青洲が、乳ガンを手術で治すためには、完全な麻酔薬を作る必要があり、その効果の実験に、母・於継が自分で実験して欲しいと申し出て、次いで、加恵も同様に申し出るのだ。
実験は成功だったが、強い薬を与えられた加恵は、副作用で失明してしまう…。
やっぱり、デコちゃんと若尾文子の対決が一番の見どころ。古い和歌山弁で「〜やのし、〜やよし」という丁寧な言葉が、逆に、お互いを恨みに思う私情を感じさせる。細かいところに良く気が付くのだが、それが相手を貶める材料として使われる。プライベートも、ホントに仲が悪かったりして(笑)。
乳ガンで重症の青洲の姉が加恵に言う。
「男というものはスゴいものや。お母さんと姐さんのことを、兄はんほどの人が気付かんはずはなかったはずやのに、横着に知らんフリをして、お二人に薬を飲ましたのですやろ。どこのウチのオナゴ同士の争いも、結局は男一人を養う役に立つのと違うんかしら。その争いに巻き込まれるような弱い男は、肥やしの効きすぎた植木のように、枯れてしまうのや。私は二度とオナゴに生まれとうない」。
こういう女の心理を演出した増村監督も、原作者の有吉佐和子も素晴らしいと俺は思うね。