「わが夢と真実」
江戸川乱歩の自伝的エッセイ。
探偵小説には明るくないのだが、小学生高学年の頃、図書館で「少年探偵シリーズ」は全巻読んだなぁ。TVでも天知茂の美女シリーズを見たことがある。
乱歩先生こと平井太郎の、およそ35年に渡る履歴書的な回顧録であり、両親や少年・青年時代のことから、小説家となってからの雑感、戦争中の生活、探偵小説批評、趣味嗜好食べ物、同性愛や残虐性への興味まで、雑多な文章をまとめたもので、興味深く読めた。
小学生の際、歳上の女生徒に恋をして、下駄箱にある彼女の下駄の鼻緒に白い紙を差して、授業の終わりにそれを取って手帳の中にしまい込んで、彼女の“霊”を盗んだつもりになってたという話は、乱歩先生らしくて面白い。
日本の探偵小説としては村山槐多のものに感心したのが最初で、それから谷崎潤一郎、佐藤春夫のものに心酔したという。
「あらゆる小説家は、多かれ少なかれ、彼が現実の地上の城主に適しないで、幻影の城主に適するからこそ、その道を辿ったのではないかしら。そして、そのことが、どんな功利よりも重大なのではないかしら」と書いている。
乱歩先生によると、恋は夢、一番魅力的な言葉も夢、なくて一番困るのも夢だという。で、十年後の日本は夢が滅びて行くと。
戦争中の生活では、「国が亡びるかどうかという時に、例え戦争そのものには反対でも、これを押し止める力がない以上は、やはり戦争に協力するのが国民の当然だと、今でも考えている」という。しかし、小説家として、「国民を激励するような小説は、ついに私には書けなかった。性格は仕方がない」だって。この飄々とした感じが、まさに乱歩先生なのだ。
脳出血により右片麻痺の二級身体障害者となりました。なんでも書きます。よろしくお願いします。