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「最悪の事態」を考えれば、正確に計画を立てられるのか?(2) ー計画錯誤と悲観的シナリオー

前回は、Newby‐Clark, I. R. et al. (2000)の研究のうち、

「ベストケース」「現実的なケース」「最悪のケース」を、それぞれ3群に分けた大学生に、大学の課題を完遂するまでの時間を見積もらせ、そのあと最終的に見積もらせ、実際に実行してみて見積もりとどの程度違うかを比較してみる実験1を紹介した。

今回は、「最悪のケース」といっているからこそ採用しないのではないか、という問に答えるために、アプローチを変えた実験2について考える。

実験2はこんな一文から始まる。

「もしかすると、被験者が自発的にシナリオをつくったら、より悲観的シナリオが尤もらしいと判断されるのではないか。」

実験2:3つの異なるシナリオをつくる

実験2の条件は実験1の「ベストケース」「現実的ケース」「最悪のケース」のいずれかの決められた1つを考えると比べるとゆるい。条件は下の一つだけだ。

シナリオを3つつくる。そのとき1つ目は2つ目と異なるもを考え出し、3つ目は他の二つとは異なるものを考え出す。

そして、最終見積を行い、課題を実行して、実際に掛かった時間を比較する。

よって、被験者は1つ目よりもより楽観的なシナリオを描き、2つ目よりもさらに楽観的なシナリオを描いても自由である。

(つまり、その自由をつくることで、相対的に楽観的なシナリオか、そうでないかを判定することができる。さらに、だんだん楽観的でないシナリオを考えていけば、最初のシナリオが最も楽観的ということになり、逆にだんだん楽観的なシナリオを考えれば最後のシナリオが最も楽観的ということになる。)

ここで実験者が期待したのは、最初のシナリオが最も楽観的であるということだ。

さらに言えば、見積もりを繰り返せばだんだん慎重になるという傾向があるのではないか?という仮説を確かめようということだ。

結果は、以下のようになった。

結果1:被験者が考えたシナリオのうち、最初のものが最も楽観的だった。

結果2:最終見積に最も影響を与えたのは楽観的だった最初のシナリオだった。

結果3:被験者は最初のシナリオを最も尤もらしいと判断した。

結果4:最初のシナリオは実作業時間と比較すると過度に楽観的だったが、第二第三のシナリオと実作業時間の差はなかった。


ここでもまた、実験1と実験2を組み合わせて考えれば悲観的シナリオを取り入れないことがわかった。

ただ、実験2では最初に考えたシナリオが良く取り上げられた、ということは、もしかしたらシナリオを考え出す順番が影響している可能性がある。よって、実験さんでは順番を考えることになった。

実験3

実験3では、順番の効果を検証した。被験者を3グループに分けて実験を行ったのだ。

実験群1:ベストケース => 最悪のケース の順番でシナリオを考える

実験群2:最悪のケース => ベストケース の順番でシナリオを考える

統制群:シナリオを考えない

3つの理由から最悪のケースを考える実験に戻されたことが記されている。

理由1:実験2では悲観的シナリオを取るための必然性がない

理由2:シナリオを作らない場合と比較しなければそもそも「シナリオをつくる効果」を調整して考えられない

理由3:複数シナリオを考えるべきだということを提唱する研究者によってしばしば、最悪のケースを考えるメリットが取り上げられている。

もし最初に考えたシナリオの影響が強いなら、実験群2の精度が高いはずであるし、逆にベストケースの影響が強いなら、実験群1の精度が高くなるはずだ。

結果は下のようになった。

結果1:ベストケースの方が最悪のケースよりもより楽観的だった。

結果2:最終見積は、「最悪のケース」よりも「ベストケース」の影響を受けた。

結果3:被験者はベストケースが尤もらしいと判断した。

結果4:実際の完了時間と比較すると最終見積時間は楽観的で不正確だった。

結果5:実験2の結果と合わせれば、最悪のケースはいずれも実際の完了時間に近い結果となった。

今までの実験から見えてきたこと

どうにもしぶとい「楽観バイアス」であることがよくわかる。実際に幾つかの見積もりをしたとしても、被験者が「尤もらしいものはどれか?」という質問に対して、答えるのはいつも「ベストケース」なのだ。

しぶといこの「尤もらしさの判断」は、「時間内に終わらせたい!」というモチベーションの裏返しでもある。何事も始めるときはこのくらいの時間で終えてやる!という気持ちにあふれるものなのだ。

しかし、この楽観バイアスをハックする実験を実験4では行う。

実験4はまた後日。


今回の記事は下記の論文を参考にしたものです。

Newby‐Clark, I. R., Ross, M., Buehler, R., Koehler, D. J., & GriYn, D. (2000). People focus onoptimistic scenarios and disregard pessimistic scenarios while predicting task completiontimes.Journal of Experimental Psychology: Applied, 6,171–182.

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