マガジンのカバー画像

孤独な研究者の夢想

65
認知科学研究・最近読んだ本・統計など研究に関係することを書きます。
運営しているクリエイター

#知ってるつもり

思い込みとどのように付き合うか?『知ってるつもりーー無知の科学』(3)

『知識の錯覚』が起こる状況は、周囲のもの・場所・環境や関わっている人々から生まれてしまう。 そして、『無知』『知識の錯覚』『知識のコミュニティ』こそがこの本の主題である重要なポイントだ。では、『無知』は悪なのだろうか?最初の記事においても書いたが、アクセルにもブレーキにもなる『無知』は必ずしも悪とは言い難い。 無知は腹立たしいものかもしれないが、問題は無知そのものではない。無知を認識しないがゆえに、厄介な状況に陥ることだ。 本文にはこう綴られ、本当の問題は無知に対して無

知識はコミュニティの中に 『知ってるつもりーー無知の科学』(2)

まずは本文の引用から。 人が自分の頭のなかだけにある限られた知識と、因果関係の推論能力のみに頼っていたら、それほど優れた思考を生み出せないはずだ。 人類が成功を収めてきたカギは、知識に囲まれた世界に生きていることにある。知識は私たちが作るモノ、身体や労働環境、そして他の人々のなかにある。私達は知識のコミュニティに生きている。 今までの知識観からすれば、この考えは突飛すぎるものかもしれない。なぜならば学校教育で評価する「知識」は、すべからく一人の人を対象として

アクセルにも、ブレーキにもなる思い込み(1) 『知ってるつもりーー無知の科学』

“物事を鵜呑みにせず批判的に考えなさい”,“虚心坦懐でありなさい”とは師によく言われるものだが,言われた通り自らの思い込みに囚われずにいることができるのだろうか. 自分の修士論文の冒頭を久々に見ると、なんとまた恥ずかしげもなく偉そうに語っているものである。 大学院時代に研究していた「思い込み」そして「バイアス」の話。去年翻訳が出た『知ってるつもりーー無知の科学』では、「知っている」と錯覚してしまう人間の不思議な力について認知科学の実験結果に基づいて新しい「知識観」を提供す