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孤独な研究者の夢想

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認知科学研究・最近読んだ本・統計など研究に関係することを書きます。
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#認知心理学

スキーマの違いを意識して合理的に学ぶ 【今井むつみ著 英語独習法】

楽してではなく合理的に楽しみながら英語の達人になろう ー今井むつみ(2020)『英語独習法』岩波新書 帯より引用 多くの人が悩む外国語、英語。 その英語を題材に合理的な学習法について紹介されている、 今井むつみ先生の新著『英語独習法』をご紹介します。 あなたの英語学習法は合理的?日本に住む多くの人は、学校教育の中で英語を学び、 もしかすると、その方法としてすぐ思い浮かぶのは、 ・単語・イディオム・文法を暗記する ・文章をたくさん読む ・たくさんたくさんできることをやっ

「生きた知識」をつくる「足場かけ」 【今井むつみ著 親子で育てることば力と思考力】

「中学・高校の6年間かけて学んできた英語、だけどあまりできるようになった気がしない」 「生徒に漢字や計算の方法を教え込んでも、なかなか定着せず、応用がきくようにならない」 そんなこと、よくありませんか? もしかしたらその英語の知識、外から教え込んだ漢字や計算の方法は、 「死んだ知識」になっているかもしれません。 今回は、人が学ぶときに必要な2つの力「ことば力」と「思考力」について、「人が学ぶ仕組み」と「実践へのアドバイス」が大変わかりやすく書かれた今井むつみ先生の「

外発的動機づけは悪者なのか? 【速水敏彦著 『教育心理学の神話を問い直す 内発的動機づけと自律的動機づけ』】

以前ご紹介した「自律」と「内発」について研究したデシ教授の本。 二回シリーズで「人を伸ばす力 ー内発と自律のすすめー」の紹介をしました。今回は、最近出版された下記の本、速水敏彦著『教育心理学の神話を問い直す 内発的動機づけと自律的動機づけ』の中で紹介されていた、「外発的動機づけのグラデーション」のお話を紹介します。 内発的動機づけと外発的動機づけ人の動機づけ理論として最も有名な著書は、波多野誼余夫先生の『知的好奇心』でしょう。 「人は怠け者じゃない」というそれまでの管理

(ときには)過ぎたるはなお及ばざるがごとし(2) 『なぜ直感のほうが上手くいくのか?』ゲルト・ギーゲレンツァー著

5/15の記事では、情報が少ないほうがより意思決定も上手くいく5つの場合のうち、始めの2つを紹介した。 「ヒューリスティックス(Heuristics)」の働き5パターン 1.役に立つ程度の無知 再認ヒューリスティックが良い例だが、直感はかなりの量の知識と情報を凌ぐ働きをする。 2.無意識の運動スキル 熟達したエキスパートの直感は無意識のスキルに基づいているため、考えすぎるとスキルを発揮できなくなることがある。 3.認知限界 私たちの脳は、忘れたり、小さく始めたりといっ

(ときには)過ぎたるはなお及ばざるがごとし(1) 『なぜ直感のほうが上手くいくのか?』ゲルト・ギーゲレンツァー著

『なぜ直感のほうが上手くいくのか?』ゲルト・ギーゲレンツァー著 直感のほうがうまくいく時はどんな時なのか、そのときに私達が判断する「経験則」とは何なのか、ということに切り込む書だった。 まずは「直感」「直観」「勘」の違いを明確にしたところで、 それぞれの違いがあることがわかったものの、この本のタイトル「直感のほうが上手くいく」ときは、どんな場合なのだろうか、という疑問が頭に浮かんでくる。 著者は、この本の第二章「(ときには)少ないに越したことはない」で、下の5つのパタ

直感(Gut Feelings)ってどんなもの? 『なぜ直感のほうが上手くいくのか?』ゲルト・ギーゲレンツァー著

今回は、今までの行動経済学のシステム1、システム2の話があった中で、「システム1に支配されてはうまくいかない」という話が主なトピックでした。しかし、必ずしも「システム2」を使えばうまくいく、というわけでもないことがわかっています。今回から、そんな「直感」の役割にフォーカスした、ゲルト・ギーゲレンツァー著 小松淳子訳『なぜ直感のほうが上手くいくのか? ー「無意識の知性」が決めている』をご紹介します。 直感とそれに似たことば 「直感」と似たことば、「直観」と「勘」は実際にそれぞ

「最悪の事態」を考えれば、正確に計画を立てられるのか?(3) ー計画錯誤と悲観的シナリオー

前回までの記事では、ベストケースに基づいて課題の時間を見積もる「楽観バイアスがいかに強いかが実験の結果によって示された。 今回は、残す二つの実験、実験4と実験5を紹介する。 実験4実験3までは、「ベストケース」、「最悪のケース」、「現実的ケース」の3パターンのいずれかを考えさせる実験や、複数のシナリオを考えさせる実験を行い、楽観バイアスがいかに強いかを示してきた。 そして、「最悪のケース」が最も実作業時間に近かったことが示された。 しかし、今までの実験では常に「ベスト

「最悪の事態」を考えれば、正確に計画を立てられるのか?(2) ー計画錯誤と悲観的シナリオー

前回は、Newby‐Clark, I. R. et al. (2000)の研究のうち、 「ベストケース」「現実的なケース」「最悪のケース」を、それぞれ3群に分けた大学生に、大学の課題を完遂するまでの時間を見積もらせ、そのあと最終的に見積もらせ、実際に実行してみて見積もりとどの程度違うかを比較してみる実験1を紹介した。 今回は、「最悪のケース」といっているからこそ採用しないのではないか、という問に答えるために、アプローチを変えた実験2について考える。 実験2はこんな一文か

「最悪の事態」を考えれば、正確に計画を立てられるのか?(1) ー計画錯誤と悲観的シナリオー

人は自分がこれからしようと考えていること、例えば料理や仕事にかかる時間を見積もると、 必ずと行っていいほど「楽観バイアス」が働いて、無意識のうちに楽観的に見積もり、実際に掛かる時間は見積もった時間を超えてしまう、 「計画錯誤(Planning Fallacy)」という傾向について以前書きました。 様々な分野、折り紙からソフトウェア開発まで、時間の見積もりを研究していった結果どの分野にも共通して引き起こされるこの傾向は面白い結果を呼びました。 今回は、この「楽観バイアス

熟達化と状況認識(Situation Awareness)

「熟達」ということば、そのものについてはあまり馴染みが深くない人のほうが多いかもしれない。実は私も「熟達」ということばをきいたのは、認知心理学の授業を受けてそのキーワードを聞くまで耳にしたこともなかった。 「習熟」「熟練」「成熟」「熟達」でそれぞれGoogleで検索に引っかかる件数を見てみるとこんな結果になる。 成熟や熟練などと比較すれば100分の1くらいの使用頻度である。Googleの件数がその言葉の一般性を証明するものではないものの、やや「熟達」は専門用語によっている

すべてのバイアスの母「確証バイアス」

あまりにありふれている「確証バイアス」自分にとって都合の良い事例だけを取り入れる。こんな考え方をしたおぼえはないだろうか。 ・「A型の人は几帳面」や、「O型の人はおおざっぱ」など、血液型で性格がだいたいわかる。 ・体の調子が悪いとき、自分と同じ症状でも、軽症である根拠ばかりを探してしまう。 ・雪国出身の人に「じゃあ、スキーは得意なんですよね?」と聞いたことがある。 では、私も修士論文で題材として扱い、「確証バイアス」を確かめる実験課題として扱われている「ウェイソンの2−4

数と量の結びつき(数の表象:Numerical Representation)

簡単な算数から、高度な統計学まで、人は「もの」や「こと」を「数字」に置き換えて測ることで、物事を理解しようとしている。 では、次の問題を考えてみよう。 0から100までの線があった時、74はどのくらいか問われるのだ。 これは「数字」と「線の長さ」の紐づけ、量的な感覚がどの程度あるのかを測ることのできる実験出る。この実験は様々な研究者でされたのだが、 下記のように3つの仮説が立った上で、どのやり方がマッチしているか、実験が重ねられた。 一番左から、「対数曲線モデル」「

場面で変わってしまう「ルール確認」力(Wasonの四枚カード問題)

いきなりだが、下の問題を考えてみてほしい。 今、目の前に4枚ののカードがあり、それぞれ片面にはアルファベットが、もう片面には数字が書かれている。 「A」「D」「4」「7」の四枚のカードが並んでいるが、これらが、 「片面が母音ならば、もう一方の面は偶数でなければならない」 というルールが成り立っているかを確かめたい。そのためにこの内の2枚のカードをめくることができるが、あなたは、どのカードを確かめるだろうか? ひょっとして、「A」と「4」を選ばなかっただろうか?実際

私たちに芽生える素朴理論

今回は、私たちが日常生活を送っていく中で発見し、いつも作り上げている「素朴理論」について、考えてみる。 素朴理論をあぶり出す調査 まず、下の問題を、その先を見ずに考えて欲しい。 この写真のaの点、bの点、それぞれにどのような力がかかっているだろうか。 この問題、ハーバード大学の学生に出題され、下記のような回答が80%を超える結果になった。上昇しているときは上向きの力がかかり、下降している時には下向きの力がかかる、というモデルだ。 ただ、科学的に考えると、下のようになる