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孤独な研究者の夢想

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認知科学研究・最近読んだ本・統計など研究に関係することを書きます。
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#内発的動機づけ

外発的動機づけは悪者なのか? 【速水敏彦著 『教育心理学の神話を問い直す 内発的動機づけと自律的動機づけ』】

以前ご紹介した「自律」と「内発」について研究したデシ教授の本。 二回シリーズで「人を伸ばす力 ー内発と自律のすすめー」の紹介をしました。今回は、最近出版された下記の本、速水敏彦著『教育心理学の神話を問い直す 内発的動機づけと自律的動機づけ』の中で紹介されていた、「外発的動機づけのグラデーション」のお話を紹介します。 内発的動機づけと外発的動機づけ人の動機づけ理論として最も有名な著書は、波多野誼余夫先生の『知的好奇心』でしょう。 「人は怠け者じゃない」というそれまでの管理

知的好奇心を生かす授業・仮説実験授業 『知的好奇心』

昨日のNoteでは、特に「知的好奇心」を伸ばす実践とはどのようなポイントがあるのか、ということを手繰っていくと、なんと、「ジェネレーター」にたどり着いた。 波多野誼余夫先生はさらに「知的好奇心を生かす授業」とその対極であり、悲しい現実でもある「怠け者」の社会的基盤について書いている。 知的好奇心を生かす授業では、授業を用いた実験を元にして、わかってきたことを波多野誼余夫先生はまとめている。 a. 子どもの持つ信念や先入観の利用こちらは子どもたちのもともと持っている知識「

知的好奇心と生涯遊び学ぶ人 『知的好奇心』

日本人にも『人を伸ばす力 ー自律と内発のすすめー』の著者、エドワード・デシ教授と同様にして「知的好奇心」の研究を行い、世界的な業績を挙げてた研究者がいた。それは波多野誼余夫先生だ。 基本的にはデシ教授が言うこととかわりがない。統制ということばの代わりに「疎外」という言葉を活用しているが、デシ教授の文中にも「疎外」という言葉は登場し、統制されたときに陥る子どもの状態のことを「疎外」という言葉を使っているため、同じ意味で言っているに違いない。 波多野誼余夫先生が生前著した名著

統制するのではなく自律性を支える 『人を伸ばす力 ー内発と自律のすすめー』(2)

『人を伸ばす力 ー内発と自律のすすめー』の著者であるエドワード・デシの研究から、「外的な報酬が与えられることによって、内発的動機づけが破壊される」ことがわかった。 そして、デシ教授は内発的動機づけがなぜ「外的な報酬」(例えば金銭的報酬など)が与えられると、破壊されるかということについて考えた。そのときに挙げたキーワードが「自律」と「統制」であった。 自律人は自分の内側から湧き出す要因によって、活動するとき「内発的動機づけ」(人が生まれつきもっている活力、自発性、純粋さ、好

「目的を達成したい」は内発的動機づけなのか? 『人を伸ばす力 内発と自律のすすめ』(1)

最近よく聞く言葉は「君は何がやりたいんだい?」ということだったり、「どんなことを達成したいんだい?」という質問だ。 その中でも自分から一度「絵を描きたい」と子どもが言い出せば、絵画教室に通わせ、「医者になりたい」と子どもが言い出せば、医者なるためには、あの名門中学校に行く必要があるから、という理由で受験塾に通わせる。 子どもが自分から発言した「目的を達成したい」は内発的動機づけと言えるのだろうか? まず、内発的動機づけとは真反対の概念である、「外発的動機づけ」から考えて