欧州で戦う日本人の猛者たち
今回の記事は、欧州MBAで学んだり欧州に関わる仕事をしたり欧州で働くことと、欧州で活躍する日本人サッカー選手の間に見出す共通項に関する記事です。
先日、再放送で、『スポーツ×ヒューマン「欧州で“生き残る” 長谷部誠×岡崎慎司×吉田麻也」』というNHKの番組がありました。
私は、普段、海外放送局の番組と日本のドラマくらいしかテレビを見ることがないのですが、今回は思わず見入ってしまいました。
ドイツで複数クラブを経験してきた長谷部選手、ドイツとイングランドとスペインで複数クラブを経験してきた岡崎選手、オランダとイングランドとイタリアで複数クラブを経験してきた吉田選手。
3選手が、日本人サッカー選手として欧州で生き残るにあたって考えてきたことや経験してきたこと(語学の有用性、苦手な監督、サッカーキャリアの終盤になすべきこと)を幅広に議論する、という大変興味深い番組でした。
欧州の多様性を私が好む理由の根源が、欧州サッカークラブに対する視線から来ていることにも改めて気付かされました。
比喩になりきってない比喩も挟みますが、ご容赦ください。
日本以外でどれだけやれるか
日本を飛び出て、欧州のクラブを転々としながら揉まれている彼らは、私の憧れなのだと思います。
お前は欧州を拠点に働いているわけじゃないだろうと言われるとそうです。
但し、以下の記事にも関連する内容を書いたところ、正直もはや新型コロナウィルス以降、私のチームではどこに居住しているかはあまり関係なくなり、各個人の担当地域に影響を及ぼす数少ない要素は母国がどこかということと時差の影響だけです。
私の同僚の一人であるフィリピン人の女性も、暫く前にバルセロナからパリに引っ越しました。
これはポルトガル人の元IESE(イエセ)同級生と彼が働くパリで新婚生活を始めるためで、それでも同じ仕事を続けていますし、こういった変化にチームとして大変柔軟です。
日本のMBA入学審査及びキャリアサービスは、日本の文化や商慣習の特異性と言語面の壁を踏まえると、チームの他の誰よりも私が担当した方がいいのは誰の目からも明らかです。
ただ、私は日本だけに閉じた仕事をしたいとは微塵も思っていません。
少し前の入学審査チームにおける目標設定面談でも、私ははっきりと「日本の仕事しかやらせてもらえなくなった時がこのチームを自分が去る時だ」と宣言しました。
日系企業だと、色んな意味であり得ない、挑発的な、むしろ若干脅迫めいた発言かもしれないですね 笑
実際にはあまりそういう事態にまで至ることを殆ど想定していないからこそしている発言でもあります。
そういう思考回路な一方、世界的に見て日本が特に重要な市場の1つである事実は客観的に存在するので、なるべく日本とそれ以外でバランスを取ろうとしてはいます。
複合的な理由で、現状は入学審査官としては日本と韓国と中東9カ国の担当となっており、日本に直接関係しない仕事が7割超くらい(?)を占めています。
他方、人の入れ替えのタイミングなどを狙って虎視眈々と担当地域の追加あるいは入替を狙っています。
今の時点で来年についての構想も私の頭の中には存在しますが、どうなることやら。
私ほど陣地拡大を狙っている同僚は他にはおそらくいません。
これには、日本人かそうでないかによって、いかに母国の外を見るということが特別かそうでないか、ということを示している部分も一部ある気がします。
サッカーにおいても、最近イングランド(マンチェスター・シティ)からスペイン(レアル・ソシエダ)に移籍したダビド・シルバのようなスペイン人選手の場合、イングランドのクラブでプレーしていることとスペインのクラブでプレーしていることの差を本人も周囲もさほど見出さない気がします。
一方、岡崎選手のような日本人選手の場合、スペインのクラブでプレーしていることと日本のクラブでプレーしていることには色んな意味でで凄まじい差が見出されます。
新型コロナウィルスの発生が、私のこの陣地拡大意欲に大きく拍車をかけている部分もあります。
新型コロナウィルス発生前には、年間の30-35%を海外出張ベースで海外で過ごしていてこれ以上増えすぎるといよいよプライベートとの両立が困難になると考え、陣地拡大の件は軽い相談が内々にあっても逡巡していました。
ですが、新型コロナウィルスが収束した後もフェア等に伴う海外出張は減少傾向になることが十分予想されるため、出張の負荷を気にすることなく、時差が耐えられさえする地域であれば担当可能という発想に至るようになりました。
海外就職への執着
仕事がどんなに国際的であれ、結局は現地に住んでいなければ得られないものが色々あるというご指摘は甘んじて受け入れます。
欧州の都市を歩いていて感じる独特の高揚感、日本では大してワクワクしないスーパーマーケットでの買い物も欧州の大型スーパーマーケットの場合なぜか心躍る経験、そして、そもそも生活の些細な断片からの様々な学び、など、私もそういったことは重々承知しています。
プライベートなことをnoteで口外することのデメリットはメリットを上回るとの考えから詳述を控えます。
私は、純粋な一個人としてはイタリアに長く住みたいと思っているものの、頻繁な海外出張やノマド的な数ヶ月の海外滞在を除き、日本を拠点にしていかざるを得ない個人的事情があります。
若干、潮目が変わり得る兆しがないわけではないですが。
バルセロナという都市自体は極限レベルで愛しているものの、イタリアへの愛はこれまで幾度かnoteで囁いてきた通りで、国として見ると、食事が決定的な理由で、イタリアがスペインを私の中で凌駕します。
広義の海外就職を実現するだけなら、業界や職掌や企業の種類や給与水準を妥協すればそれほど難しいことではないでしょう。
私はそれらを人一倍妥協したくないし、それらを妥協してまで地理を変更することにそれほどの価値はない(特にどこを拠点にするかがあまり意味がなくなる新型コロナウィルス発生後)、と思ってきました。
例えば、日系金融は駐在の可能性が最も高い選択肢の1つだと新卒の就職活動の時にも一瞬だけ考えましたが、やはり本質的に本業界に対しての興味が皆無だったので、結局何もしませんでした。
単なる海外への憧れだけで動いているわけではなく、少なくとも今なら、広く言えば、人の可能性を広げる関連の仕事に従事していたいという根幹がブレることはありません。
そして、海外就職して勝ち得たポジションで日本市場を新規開拓することを命じられるという話もそれなりの頻度で聞く話ですが、それも私が望むところとは少しズレています。
だからこそ業界や職掌や企業の種類や給与水準といった拘りを妥協することなく海外就職(日系企業の海外支社等除く)を実現していて必ずしも日本に関係しないお仕事をされている方々のことを特に尊敬しています。
また、言い換えると、トップクラスの海外MBAという学位があっても、妥協なしの海外就職は全く簡単なことではありません(インターンは難易度が俄然下がります)。
一方で、それらを妥協してまで海外就職を実現しようという日本人は、海外MBA受験時に比べると卒業後にはだいぶ少なくなっている気がします。
海外に住まずとも国際的な仕事を十分満足いくレベルでできるという現実を見い出したり、プライベートとのバランスについて思いを馳せる海外MBA在校生や卒業生がやはりそれなりにいるのかもしれません。
欧州サッカーの多様性への眼差し
トットナム所属のソン・フンミン(韓国出身)も、アーセナル所属のオーバメヤン(ガボン出身)も、マンチェスター・ユナイテッド所属のカバーニ(ウルグアイ出身)も、母語が英語ではなく、欧州域外出身です。
ちなみに、欧州サッカー界のベストイケメンはカバーニだと思っております。
クライファート(元オランダ代表、引退済)もそうですが、凄く難しいシュートを華麗に決める割に案外簡単なシュートを苦手にする選手フェチが私にはあるので、その偏見も入っているかもしれません 笑
外国人枠というものも厳密には存在しますが、このように国籍や出身地を問わず選手が参画していて、欧州出身の選手に支配されているわけではない欧州サッカーの世界は、私にはとても魅力的に見えます。
それに対し、サッカーの世界を離れますが、周りが完全に英語ネイティブで、どこから来たのと聞けば「ネバダ州」とか言われて外国人からすると超ローカルトークに巻き込まれることも少なくないのが米国です。
その個別地域事情を理解しようという気持ちになりきれないという意味も含めて、どうしても私の中では相対的に魅力度が減退します。
前項はあくまで一事例ですが、学生の大多数が米国人である米国で日本人がMBAを目指しそこで価値を出すことは、欧州でのそれより更に大変なものでしょう。
したがって、欧州MBAで日本人が出せている価値と同じものを米国MBAで発揮できている日本人がいるならば、その方は本当に凄まじいレベルにあると考えます。
その方は、少数派としての生存競争を強いられる米国MBA期間中はどうにか生き残って学位を取得し、卒業後は、かけられた魔法が解けたシンデレラかのように、米国MBA前と同じように再び日本で主に日本人に囲まれて働いていくような方々とは、卒業後においても随分違う次元にいらっしゃるはずです。
「シンデレラ」が別の形でご活躍をされていくのは自明ですので、ここではその側面は議論しません。
現地就職の話をすると、米国でも外国人はそこそこいて一概に欧州と比較し辛いところがあります。
ですので、ここでは話をわかりやすくするために、米国籍の占める割合が一層大きいことが自明な米国MBAの話をあえて持ち出しました。
私の職場環境はIESE MBA当時と非常に連続性の高い環境です。
自分が超少数派である一方明確な多数派が既に存在する環境で生存競争を強いられる環境よりも、このように「多数派なき多様性」という欧州MBAをわかりやすく彩る言葉に溢れた他国籍環境で肩を並べて仕事を出していきたいという思いが強いです。
実際、IESE MBAの一年目には年間固定で毎日会うことになる9人の国籍がバラバラのチームに配置されますが、他のメンバーにその国の代表としての意見がしっかり尊重されますし、逆に自らが発信することの責任が周りへの貢献という意味で増します。
ちなみに、そんな環境と連続性が高いと述べた私の入学審査チームの同僚の国籍は、ブラジル、アルゼンチン、ペルー、エルサルバドル、米国、スペイン、ルーマニア、シンガポール、フィリピン、インド、中国、香港といった感じです。
番組の中で、30代である長谷部選手や吉田選手が、欧州は年齢について非常にシビアで年齢だけが理由で短期契約しかしてくれず、万一長期の怪我をした際にキャリアに訪れるであろう非常に厳しい状況についての懸念を表明していました。
そういった意味を含め、彼らは、私とは比較するのがおこがましいほど大変な環境での生存競争を強いられていると考えていますが、だからこそ素直に色々学びたいなと常々思っています。
いずれにせよ、あり得る代表戦以外は完全に日本に関係ない欧州のクラブでの活動に集中している彼ら日本人3名(長谷部選手は日本代表引退済)には、ついつい引き寄せられてしまいます。
キャリア終盤に差し掛かっていることは否定できないでしょうが、彼らの今後の欧州での継続的な活躍を心から願っているとともに、私も色々頑張りたいと思います。
欧州MBAを目指すあるいは所属する方々は、私と同じように彼らに感化される部分も少なくないのではないでしょうか。