指輪が、重い
「指輪が、重い」
結婚指輪を見ながら、夫がつぶやいた。
結婚17年目。
私たち夫婦には子どもがいない。
2人だけの生活も16年が過ぎ、17年目に突入した。
夫は男性にしては珍しく、この16年結婚指輪をつけ続けている。
そして私も同じ。
ずっと当たり前につけていた結婚指輪。
それを重く感じたらしい。
でも分かる。
私にも分かる。
「重い」って気持ちが。
何かがずっと指に触れている感じ。
異質なものがくっついている感じ。
私もたまにそんな感じを「重い」って思っていたから。
だから夫に言った。
「結婚指輪、外してみよう」って。
そう言った瞬間、瞬時に自分の心を確かめる。
本当は外してほしくないのに、夫に合わせて外していいよと言っていないか。
本当は外されることに寂しさや悲しさを感じていないか。
何もなかった。
私も外したくなった。
ちょっと面白いかも、なんて思ってしまった。
だから私も、結婚指輪を外してみることにした。
夫も私も指輪をしていた部分が細くなっていて、ちょっと奇妙で笑ってしまった。
「もっと軽い指輪を買ってもいいかもね」
ふと思ったので提案してみた。
「それ、いいね」
もういらないよって反対されるかと思っていたから、拍子抜けした。
「ボーナスが出たら見に行こうよ」
夫の心はもう新しい指輪を買うことになっている。
これは昨夜の出来事。
今朝、夫は指輪をしないで出勤した。
「会社で何か言われるかな」
にやりとして玄関を出て行った。
これを書きながら思っていた。
昔の私だったら、指輪を外すことと夫の私への愛情を結びつけていたかもなぁって。
「指輪が重い」という言葉に悲しくなっていたかもしれない。
夫が私から離れていくように感じていたかもしれない。
今の私はそんなことを思うこともなく、反対に面白いとさえ思っている。
結婚17年目の夫婦が今更「重い」と指輪を外すって、なんだか面白いじゃない。
新しい指輪も、本当はどっちだっていい。
可愛い指輪と出会えたら買うし、出会えなかったら買わなくていい。
それだけ。
重いと言って外した指輪だけれど、外してみるとなんだか指の方が寂しくなってすぐにつけたくなっちゃったりして。
それはそれで面白いよね。
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