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ラララありがとうお気に入り

わたしは、夏が大好きだ。

キラキラとエネルギー溢れる植物。
子供心くすぐられるたくさんの虫。
明るい太陽、青い空、白い雲。
汗をかいたあとに浴びる熱いシャワーと、お風呂上がりの心地よさ。
体をぐいーっと伸ばして、「ああー!夏だー!最高ー!」ってしたくなる。

そんな夏が、大好きなだけに。

雨の日が苦手だ。

空はどんよりしているし。
低気圧で頭は痛くなるし。
傘を差していても吹き込んできて濡れるし。
レインブーツを履き忘れると、靴がびしょびしょになって気持ち悪いし。
洗濯物は部屋干しの匂いになるし。

癒しの雨の音、雨上がりの土の良い香り、綺麗な紫陽花などなど、雨の日の良いところを加味しても、苦手だ。

そんなわたしが、雨の日に少しでも気持ちを明るくしたいと思い、こだわりはじめたアイテム。

それが、だ。

10代の頃、傘はシンプルな色のものを使っていた。
周りに派手な傘を使ってる人もいなかったと思う。

わたしは二十歳で家を出て上京したのだが、実家から傘を持ってくるのを忘れてしまった。
それまでは傘へのこだわりはなく、母親に「なんか適当にシンプルなやつ〜」と、リクエストして買ってきてもらっていた。
そのため、初めて自分で傘を選んで買うということを、二十歳で経験したのである。

傘って一体どこで売ってるんだ?コンビニのビニール傘っていうのもなあ、盗まれるし。

と、さまよい歩いたショッピングモール。
雑貨屋さんを何気なく見て、衝撃を受けた。

傘…あるじゃん…超かわいいじゃん…

シンプルな傘しか使ったことのないわたしにとっては、眩しいほどだった。

可愛らしい小花柄に明るい星柄、色もたくさん!
持ち手がなんか細い!
えっ縁が金色!なんなら持ち手も金色!?
これすごい高そうだけどいくらなの?げっ3000円?傘に3000円は無理無理!

一人で脳内お祭り騒ぎ。
悩んだ末、わたしは、ピンクと茶色のお花の柄の、細身でとても可愛い傘を買ったのである。

それからというもの、雨の日に出かけるのがめちゃくちゃ楽しくなった。

「わたし可愛い傘差してる♪るん♪」って感じだ。

話は変わって。
10代から20代にかけて、わたしはものすごいオタクだった。
元々はアニメや漫画が好きだったのだが、とある日からテレビ朝日の有名バディ物の刑事ドラマにどハマりしており、二十歳のときには最高潮にトチ狂ったハマり方をしていた。

そんなわたしが上京してきてやりたかったことのひとつに、「霞ヶ関に行って警視庁をこの目で見たい」というものがあった。

その気持ちがピークに達したある日、わたしはその願いを叶えようと動いたのだが、その日はものすごい土砂降り。
晴れている日に出直せば良いものを、頭のおかしかったわたしは、「いや行きたいという気持ちに従うしかない。今日行こう。」と、お気に入りのピンクの傘を差し、ひとりで霞ヶ関へと向かったのである。

田舎で育ったわたしは、霞ヶ関がいったいどんなところなのかなんて深く考えたこともなかったのだが、実際に行ってみて気づいた。

「わたし…めっちゃ浮いてない…?」

そりゃあそうだ。
霞ヶ関にどしゃぶりの日に遊びにくる人なんているはずもない、いるのは仕事で来ている人だ。
黒々としたスーツで、小難しい顔をして、グレーとか紺とかの傘を差して歩く人々の中、明るい色のワンピースを着て、お花柄のアポロチョコみたいな色の傘を差しているハタチの女子が一人。

官公庁の前に立つ警備員たちが、「いったいこの子はこんな雨の日になんの用でこんなところをウロついているんだ?」と、思っているのを、表情からしてありありと感じた。

しかし。このときのわたしは、トチ狂った最強のオタク。

「こんなお花柄の可愛い傘を差している女の子が一人。うふふ、警視庁特命係の二人は鋭いから、この姿を見て何か事件だと思って声をかけてくれるかもしれない。」

「わたしはポケモントレーナー」でも書いたのだが、わたしはテレビの中のものを現実に「いる」と思って楽しむタイプの人間だったので、こんなことを本気で考えニヤついていた。

もちろん声をかけられることはなかったが、もう大満足で帰路についたのである。
いやこわすぎ。


そんなわけで、このピンクのお花の傘がきっかけで、傘にこだわるようになった。

傘の楽しみ方は、人によっては色々な柄の傘を何本も持っておいて、その日の服装や気分に合わせて選ぶということもあるだろう。
わたしは、選び抜いた傘を「お気にの傘」と呼び、一本だけ使い倒すタイプだ。
それだけに、以前旅先でお気にのトリコロールカラーの傘を盗まれてしまったときは1週間落ち込んだが。
こだわりたいので、なかなか「これ!」という傘をすぐに購入できないという点にも困っていたり。

でも、「お気にの傘」のおかげで、苦手な雨の日の気分もぐーんと上昇する。
「雨に唄えば」を鼻歌で歌ってしまうくらいには。


今は、家に置いておく用に、オレンジと白のしましまの傘を。
車に置いておく用に、水色とピンクと黄色のちぎり絵アートみたいな傘を、使っている。

梅雨がやってきた。
わたしの「お気にの傘」の、活躍の時期だ。ああ嬉しい。

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